アルピニストの野口健さんが福島第1原発から20キロ圏内に取り残された家畜の様子をブログで紹介し、話題となっている。
立ち入り禁止の警戒区域では、いまもまだ多くの動物が取り残されている。野口さんのブログ(2011年7月30日付)には、南相馬市にある牧場に取り残された豚や牛が餓死していった様子、共食いをして生き延びた様子などが多数の写真付きで紹介され、切実な訴えが書かれている。
「生き延びた豚たちがジッと見つめてくる」
野口さんが南相馬市から許可をもらい、震災後から現地に通い続けている民主党の高邑勉衆院議員とともに20キロ圏内に立ち入ったのは6月20日。視察した豚舎には、餓死した豚の大量の死骸のほか、まだ生き残っている豚もいた。野口さんは「糞尿にまみれ、また腐敗しドロドロになったウジだらけの死骸を食べている豚の姿に、吐き気に襲われ豚舎から胃液を吐きだしていた」といい、豚舎の様子を、「まるで戦場だ」と表す。
「生き延びている豚たちがジッと我々を見つめてくる。言葉は発しないが、しかし彼らの寂しげな眼差しが『助けてほしい』と私たちに訴えかけているようだった。檻から放すわけでもなく、かといって殺処分するわけでもない。彼らが餓死するまで放置される。死を迎えるその瞬間までまさに生き地獄。なんとかならないものかと、ただただ呆然とし、言葉を失っていた」
次に向かった牛舎でも、何頭もの牛がエサをもらう姿勢のまま餓死し、横たわっていた。腐り果てた牛の頭部、1頭だけ生き残っていた牛の写真が掲載された。
「あの状況の中、人が緊急的に避難しなければならなかったのは当たり前の事。家族同然に育ててきた牧場主の気持ちを思うとあまりにも切なかった」
その後、複数の牧場を視察する中で、ある広場で豚の殺処分の現場に遭遇する。「現場に行く」をモットーにさまざまな場所に足を運び、環境問題などに取り組んできた野口さんだが、「この現場は特に辛かった。正直、気持ちが折れかけた」という。
写真を載せるかどうか直前まで悩んだ
野口さんはツイッターで、ブログに写真をアップロードするかどうかを直前まで悩んだことを明かし、「これも現実の世界。賛否はあるかもしれませんが、見るかどうかはそれぞれのご判断にお任せします」。ネットでは、凄惨な現場の様子を見て、「かわいそうで見ていられない」「これが本当の報道だ」「目をそらしちゃいけない」などの声が上がっている。
政府は5月12日、警戒区域内の家畜について、苦痛を与えない「安楽死」によって処分する方針を発表したが、拒否を続ける農家は多い。殺処分の現場を目の当たりにした野口さんは、
「確かに家畜の多くはそもそも論として食用として殺されていく運命だ。しかし、その死と殺処分の死では意味が違う。命のために命を頂いている。それが食べるという行為だ。しかし、あまりにも安易な殺処分は命を命として扱っていないような気がしてならない」
と、殺処分以外への道を訴える。
殺処分は現在、伝染病を持ち込む恐れのある豚を優先して行われている。一方、震災前に約3500頭いた警戒区域内の牛は、餓死などで約2000頭まで減った。野口さんや高邑議員は、残った牛を放射線の影響を受けた貴重な生物資源として保護観察下に置き、国際的な研究に生かすという「ファーム・サンクチュアリ~希望の牧場~」構想に取り組んでいる。