世界の証券取引所がミリ秒(1000分の1秒)を切る超高速取引の世界を競う。東京証券取引 所は2012年5月、現在の2ミリ秒の2倍超にあたる900マイクロ秒(1万分の9秒=0.9ミリ秒)に速めるにシステム投資を実施する。
すで に欧米では「ケタ」としては「100マイクロ秒」が主流になりつつあり、年間数百億円 かかる「軍拡」と呼ばれる速度競争は終わりの見えない状況だ。
「1マイクロ秒でも速い方が投資家に有利になる」
東証は2010年1月、「アローヘッド」と名付けた新システムでの取引の提供を開始した。導入以前は売買注文を受けて成立させるまでに数秒かかっていたが、2ミリ秒という当時としては世界の最先端を行く速さと安定性を誇った。しかし、取引システムの世界は、素材である半導体に歩を合わせる形で日進月歩だ。今はニューヨークやロンドンは100~300マイクロ秒にまで進化しており、東証との立場が逆転している。
世界の取引所が高速を競うのは、機関投資家のニーズがあるからだ。高速取引の世界のプレーヤーは、コンピューター任せの「アルゴリズム」という手法を使う。これは企業の業績や今後の経営環境などを考慮せず、コンピューターが相場を見て売買の注文状況などから判断し、「ゆがみ」を見つけて「サヤ」を抜くための戦略を描き、 それに基づいて売り買いの指示を出す仕組み。
アルゴリズムで取引する場合、「取引システムは1マイクロ秒でも速い方が投資家に有利になる」との見方が有力。このため取引所としても「上得意先」である機関投資家をつなぎとめるためにも、高速サービスを競わざるを得ない、というわけ だ。
「コロケーション」と呼ばれるサービス登場
顧客のつなぎとめと言えば、世界の取引所は最近、「コロケーション」と呼ばれるサービスにも熱心だ。これは東証のデータセンター内など、物理的に近い位置に証券会社の自動売買用サーバーを置いてもらい、超高速の売買注文を確実に少しでも速く出してもらうためのサービス。「そこまでするか」という気もするが、東証でもコロケーション経由が取引の3割程度を占めるほど存在感を高めている。
既存の取引所にとっては、すでにミリ秒の壁を突破し、世界でシェアを高める私設取引所(PTS)も、投資の手を緩められなくなる存在だ。日本ではまだ数%程度だが、英国や米国では5割程度にまで高まっている、という指摘もある。
終わりの見えないシステム投資競争の中で、米欧で証券取引所を運営するNYSEユーロネクストとドイツ取引所が年内に合併するなど、取引所の世界再編も始まっている。東証も大阪証券取引所との統合協議を進めているが、コップの中の主導権争いで合意にいたれていないのが実情だ。東証内では「早く単独上場してNYSE・ドイツ連合に加わった方がいい」との声も漏れ始めている。