ファイル交換ソフト「ウィニー」(Winny)の開発者で、著作権法違反ほう助の罪に問われたものの2審で無罪判決を受けた元東大大学院助手の金子勇氏が、自らも設立にかかわったベンチャー企業の社外取締役に就任した。この会社は、P2P技術でコンテンツを高速配信する技術で特許も取得しており、活躍の場を広げたい考えだ。
金子氏が関連する一連の裁判は、群馬県の男2人が、ウィニーを使って映画をネット上に違法に公開した容疑で逮捕されたことがきっかけだ。
大阪高裁で金子氏側の主張認められ逆転無罪
金子氏は、ウィニーを開発・改良して2人の犯行を助けたとして、著作権法違反ほう助の罪で2004年5月に逮捕・起訴。1審の京都地裁では罰金150万円(求刑懲役1年)の有罪判決を受けたものの、09年10月の2審の大阪高裁判決では、金子氏側の主張が認められ、逆転無罪判決が下った。だが、大阪高検は「判決は承服しがたい」などとして最高裁に上告。現在も係争中だ。
この間も、金子氏の技術開発に対する意欲は衰えていなかった。04年冬、金子氏が弁護団の壇俊光弁護士と接見する中で、P2Pの技術について話題が盛り上がり、会社設立のアイディアが持ち上がったという。05年4月には、ベンチャー企業「ドリームボート」(現・Skeed)が立ち上がり、同社ウェブサイトによると、金子氏は創業メンバーのひとりで、技術顧問として製品開発に携わっている。
06年には、P2P技術を活用して高速にコンテンツを配信できるサービス「SkeedCast」を発売。08年には、京都府、朝日放送(ABC)、セガといった著名企業が、このサービスを採用。09年には、金子氏が同製品のために開発したセキュリティ技術が特許を取得してもいる。
「活躍の場を得たいと熟慮を重ねた」
この間、金子氏はIT系ニュースサイトの取材に応じたり、技術系の講演会で講師をしたりしているが、必ずしもメディアへの露出は多くなかった。
ただ、金子氏は7月27日付けでSkeed社の外部取締役に就任し、
「いつまでも裁判に引きずられて活動を自粛しているよりは、清々とした活躍の場を得たいと熟慮を重ねた結果、今日まで成長するに至ったSkeed社とより関係を強化していきたい」
とのコメントを発表。今後、露出が増える可能性もある。ただし、最高裁で無罪判決が覆って有罪が確定した場合は、
「その時点で取締役は辞退せざるをえなくなります」
と、辞任する構えだ。
また、Skeed社は、
「会社発足当初より、金子さんには、当社顧問として多くのお力添えをいただいてきました。技術系ベンチャーである当社としては、金子さんにより深く事業に関わっていただき、この先、会社が成長していく楽しみをぜひ共に分かち合ってもらいたいと考え、社外取締役に就任していただきました」
と、金子氏の役員就任に期待を寄せている。