(24日大槌発=ゆいっこ花巻支部;増子義久)
「最初はあの笑顔の意味が分からなかった。でも、次の人生に向かって一歩踏み出す、未来を見つめる笑顔ではないかという気がしてきた」―。イタリア人のフリージャーナリスト、アレッシア・チャラントラさん(30)は東日本大震災で壊滅的な被害を受けた大槌町の被災者と出会った時の印象をこう語った。
大震災後、石巻市の惨状を報告するルポがイタリアのマスコミに掲載され、これが権威のある賞を受賞した。ところが、この筆者は現場には一度も足を運んでいないことが明らかになった。ショックだった。自分もそういう目で見られていると思うと悔しかった。今月初め、脱北者を中心に書いた北朝鮮ルポが優秀作品として認められ、その賞金を手に日本にやってきた。
「まるでポンペイの遺跡みたい」―。一面瓦礫(がれき)と化した被災現場に立ったアレッシアさんは絶句した。22日からわずか3泊4日の取材だったが、被災者と一緒に避難所に寝泊まりし、仮設住宅に住む人たちを精力的に訪問した。瓦礫の上に屋台を開業した元居酒屋店主、まちづくりを熱っぽく語る若者グループ…。
アレッシアさんは1週間前に仮設住宅に引っ越した越田ケイさんを訪問した。この日(24日)、74歳の誕生日を迎えた越田さんは大震災前に経営していた理髪店の再建についての夢を語った。「失ったものが大きいのにこころはキラキラと輝いている」とアレッシアさん。「最初はどうしてみんな、こんなに明るいのかと不思議でならなかった。悲しみを隠すための明るい笑顔なのかと…。でも、未来に向かって歩き出すしかないと覚悟を決めた時、苦しみや悲しみの中から本当の笑顔が現れるんだ、とそう思った。勇気を貰ったのは私の方だった」と言葉を詰まらせた。
イタリアでは2009年1月から4月にかけて発生したイタリア中部地震(ラクイラ地震)で300人以上が犠牲になり、2年が過ぎた現在も6万人以上が仮設住宅での避難生活を強いられている。母国の現状を説明しながら、アレッシアさんは「日本では仮設の入居期限が2年間と決められているが、イタリアの例からも生活再建にはもっと時間がかかる。イタリアの政治家もそうだけれども、日本の為政者も被災者に寄り添う姿勢が薄いような気がしてならない」と話した。
イタリアの大学で日本文学を学んだアレッシアさんは夏目漱石の『こころ』を原文で読みこなすほどの日本通。「そう、私の最大の関心事は人間のこころの動き。今回の大震災が日本だけではなく世界中の人々のこころにどんな変化をもたらしていくのか。今後も機会を作って日本を訪れ、大震災のその後を見続けたい」。アレッシアさんはこう言い残して、25日、次の取材地である放射能被災地・福島に向けて岩手を後にした。
「ゆいっこ」は民間有志による復興支援組織です。被災住民を受け入れる内陸部の後方支援グループとして、救援物資やボランティアの受け入れ、身の回りのお世話、被災地との連絡調整、傾聴など精神面のケアなど行政を補完する役割を担っていきたいと考えています。
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