ノルウェーで起きた爆弾と銃乱射の連続テロ事件の容疑者と日本の意外な「接点」が明らかになった。容疑者が書いた1500ページにも及ぶ文書の中に、日本こそが理想的な政治体制を持つ国だとの記述が見つかったのだ。
さらに「会ってみたい人物」の1人として、麻生太郎元首相の名を挙げている。日本のどこにあこがれを持ったのか。
ネットに1500ページ「反イスラム」呼びかけ
76人の犠牲者を出したノルウェーのテロ事件の犯人として逮捕された、アンネシュ・ブレイビク容疑者。事件を起こす前、インターネット上に「2083:欧州独立宣言」と題した1500ページの文書を公開していた。反イスラムを掲げ、ノルウェーのイスラム系移民受け入れ政策に反発していたというブレイビク容疑者は、この文書の序盤で「多文化主義、つまりは文化的マルクス主義に基づいた政治信条を排除しなければ、西欧諸国のイスラム化は避けられない」と独自の理論で読者に呼びかけている。
1350ページ目付近では、「テンプル騎士団司令官のインタビュー」との見出しが出てくる。文書の中でブレイビク容疑者は、中世の欧州で活躍した騎士修道会「テンプル騎士団」の司令官を名乗っており、この章では各種の質問にブレイビク容疑者が答える形式で進行する。
章自体が長編だが、この中に「今日の国家の政治システムで最も高く評価しているのはどこか」という質問があった。これにブレイビク容疑者は
「日本と韓国、台湾のシステムは特にすばらしい」
いずれも「多文化主義を完全に否定」し、「自分たちの単一文化の維持、保護に努めている」という解釈だ。欧米から教育や科学、テクノロジー、経済のメカニズムを学びとる一方で「固有の文化だけは譲らない姿勢」と分析、共感を寄せた。
英フィナンシャルタイムズ紙(電子版)の2011年7月25日付記事は、この点に触れた。ブレイビク容疑者が日本などアジアの国をモデルにしていることから「白人至上主義者や北欧の国家主義者でもない、言わば『大欧州主義者』」「極右思想でも特別な考え方の持ち主」と分析した専門家の言葉を紹介している。
ローマ法王、プーチン、カラジッチ、そして・・
さらに読み進めていくと、「現存する人物で会ってみたいのは誰」との問いがある。これに対しては、ローマ法王とロシアのプーチン首相を挙げた。特にプーチン首相は「親友になるか最大の敵となるかは分からない」としつつ「敵には回したくない」と評している。
この2人以外で会いたい人物を問われた時、ブレイビク容疑者が名前を出したのはオランダの極右政党「自由党」のウィルダース党首、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でイスラム系住民の大量虐殺を指揮したとされるカラジッチ氏に加えて、韓国の李明博大統領、さらには麻生太郎元首相だった。
極端な反イスラム主義を掲げるウィルダース党首やカラジッチ氏に好意を持つのは理解できるが、なぜ麻生元首相なのか。理由は書かれていないが、自身が称賛する政治システムを持つ日本のリーダーとして、ブレイビク容疑者が文書を執筆していた時点で首相だったとみられる麻生氏の名を挙げたのではないか。韓国の李大統領も、同様の理由だと推測される。
日本国内に住む外国人のうちイスラム圏出身の永住者は、総務省の統計によると、2009年時点でインドネシアの3469人が最も多い。永住者のうちイスラム国家出身者は1万人程度、これに「日本人の配偶者」「定住者」を合わせても2万人程度で、人口比では0.01%とごくわずかだ。これに対してノルウェーのイスラム系移民は全人口の2%ほどに上ると言われている。数字だけを見れば、反イスラムのブレイビク容疑者にとって日本は「理想郷」なのかもしれない。
しかしながら日本では政府が留学生30万人計画を推進するなど、外国人を排斥しているわけではなく、文化の多様性を否定しているわけでもない。ブレイビク容疑者の何とも「特異」な解釈で、日本は勝手に好感を抱かれてしまった。