地上テレビ放送は、デジタル放送へ「完全」移行した。初日には17万件超の問い合わせが窓口に殺到した。それでも総務省などは「大きな混乱はなかった」としている。
また、アナログTVのままデジタル放送を見ることができるチューナーは品薄状態が続いており、価格比較サイトをみると、一部は価格が数倍にもなっている。
総務相「現時点で想定の範囲内」
大震災被災3県をのぞき「完全移行」した翌日の2011年7月25日付の朝刊社会面トップ(東京最終版)で、朝日新聞は「TV新時代淡々と」「移行、混乱少なく」と見出しをつけて報じた。一方、毎日新聞の社会面トップの見出しは、「店へ窓口へ殺到 対応遅れ チューナー完売」だった。両紙を比べると、随分と違った印象を受ける。
片山善博・総務相は7月24日夕の会見で、「(問い合わせ件数は)現時点で想定の範囲内」と述べ、大きな混乱はなかったとの認識を示した。民放連とNHKも24日に共同会見をし、「大きな混乱なく切り替えを迎えた」と「自画自賛」した。
総務省の地デジ・コールセンターへの問い合わせは、25日昼に確認すると、24日の24時間で約12万4000件だった。7月の1日平均件数は2万4000件なので、5倍を上回ったことになる。これとは別に、NHKと各民放にも計5万件超の問い合わせが寄せられており、合わせると初日だけで17万件超にも上る。一夜明けた25日にも、問い合わせは続いている。
民放連の広瀬道貞会長は7月21日、デジタル化未対応世帯は10万世帯程度との予測を披露した。完全移行後、「地デジ難民」をいかにゼロに近づけるかについては、「1週間程度が勝負」と、短期決戦の見方を示している。
総務省などの姿勢には、――5000万とされるテレビ世帯のうち、地デジ難民が10万世帯なら0.2%、先行した米国の例の2%強に比べればうまくいった――そんな意識も垣間見える。
問い合わせ多発は「混乱」
「初日17万件超の問い合わせ」をどう見るかについて、立教大学社会学部のメディア社会学科、砂川浩慶准教授に聞いた。砂川准教授はこれまで、国の地デジ浸透度調査から80歳以上の人の世帯が対象から除外されたことなどを問題視し、指摘してきた。
砂川准教授は、問い合わせ件数の多さについて、「一般的に『混乱』を示すものだと思います」と話した。地デジ難民の数について、総務省が実測ではなく推計値で「大本営発表」をし、「大きな混乱なし」と完全地デジ化を強行した責任は重いと考えている。「混乱」は予想できたからだ。
総務省などは夏中にも、地デジ難民対策を終えたい考えだが、砂川准教授は「年内一杯は対策を続けるなど丁寧な対応をしないと、置き去りにされてしまう人が必ず出てしまいます」と指摘する。
さらに、「国民の情報インフラであるテレビが、地デジ化でテレビ離れを加速させたことにならないか、国策の検証が必要だ」とも求めた。
7月頭から値段3倍のチューナーも
総務省などへ問い合わせの中には、「チューナーを買いに行ったが売り切れだった」という「悲鳴」も少なからずあった。東京都内の複数の家電量販店では、入荷しては売り切れ、また入荷してはすぐ売り切れという状態が続いているそうだ。
ある大手量販店の関係者に話をきくと、1か月前あたりから、「在庫がなくなり発注。また在庫がなくなり発注」という繰り返しが何度かあったという。現在はまた新規発注分が入荷しつつあり、「店頭に全くない状態というわけではない」。価格については「変化なし」だそうだ。
価格比較サイト「ECナビ」でいくつかのチューナーを見てみた。任意に3000円台のもの2種類、7000円台1種類、2万円弱2種類の計5種類をクリックしたが、いずれも「在庫なし」「品切れ」「売り切れました」との表記だった。
「価格.com」サイトで、いくつかのチューナーの価格変動履歴をみると、5月から7月頭まで5000円程度だったのが、25日現在約1万5000円、同じく7月頭まで1万5000円だったものが現在2万5000円と急上昇傾向を示していた。