東京都渋谷区で1997年に起きた「東電OL殺人事件」で、無期懲役が確定したネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の再審請求が認められる可能性が出てきた。被害女性の体内から採取された精液などのDNA鑑定の結果、マイナリ受刑者以外の男性のものと分かったからだ。
さらに、DNA型は殺害現場に残されたマイナリ受刑者以外の人物の体毛と一致した。読売新聞が2011年7月21日付朝刊で報じ、その後報道各社が伝えている。
一貫して無罪を主張
確定判決では、「第3者が被害者と現場の部屋に入ったとは考えがたい」と指摘していたが、今回の鑑定結果は、時間帯は不明だが現場にマイナリ受刑者以外の第3者が被害者と一緒にいた可能性を示すものだ。
同事件は、基本的に同じ証拠に基づきながら1審で無罪、2審で逆転有罪となった。03年に最高裁が上告を棄却し、強盗殺人罪によりマイナリ受刑者の無期懲役が確定した。マイナリ受刑者が犯人であることを示す直接的な証拠はなく、状況証拠を積み上げた結果の判決だった。マイナリ受刑者は、捜査段階から一貫して無罪を主張していた。
今回の鑑定結果について検察側は、犯人が別にいることを直接示すものではない、とみており、従来の主張は変えない方針の模様だ。この第3の人物による被害者との接触は、マイナリ受刑者より前のことである可能性があるからだ。被害者は当時、不特定多数の男性と性交渉をもっていたことが裁判でも指摘されている。
しかし、マイナリ受刑者より後の接触である可能性も否定できず、確定判決が「第3者が被害者と現場の部屋に入ったとは考えがたい」とした認定が揺らぎかねなくなったことの意味は小さくなさそうだ。そもそもマイナリ受刑者は、事件当日は被害者と会っていないと訴えている。
「これまで鑑定不実施」の検証も
現場からは、使用済みコンドームの中からマイナリ受刑者の精液が見つかり、マイナリ受刑者の体毛も見つかっていた。マイナリ受刑者は裁判で、犯行があった日よりも1週間から10日程度前のことだと主張したが、確定判決では退けられた。
今回のDNA鑑定は、同事件の再審を始めるかどうかを審議している東京高裁の再審請求審で弁護側が要請した。高裁はこれを受け、現場で採取された物証のうちDNA鑑定をしていないものについて実施するよう、検察側に要請していた。今後、なぜこれまで鑑定が行われなかったのか、の検証も求められそうだ。
「東電OL殺人事件」は1997年3月に起きた。東京都渋谷区のアパートの空き室で東京電力の女性社員(当時39歳)が首を絞められ殺害された。現金4万円も奪われた。被害者が大企業の総合職女性だったこともあり、当時その私生活報道が過熱したことでも知られる。