新聞・通信・放送133社が加盟する日本新聞協会は2011年7月20日に開いた会員総会で、会長に朝日新聞社の秋山耿太郎社長を選んだ。前会長が退任してから約1か月にわたって異例の空席が続いていたが、秋山氏は新聞協会として「販売正常化」を押し進めることを条件に就任を引き受けた。
ここまで就任がずれ込んだのは、いわゆる「押し紙」の扱いをめぐる、各社の販売政策の違いが背景にあるといわれている。
新聞協会長は「読売→朝日→毎日」の「輪番制」
歴代の新聞協会の会長は、「読売→朝日→毎日」の事実上の「輪番制」がとられており、不祥事など特別なことがない限り、2期4年を務めるのが慣例だ。だが、09年6月に会長に就任した内山斉・読売新聞グループ本社社長(当時)は11年4月、健康問題を理由に1期2年限りでの辞任を表明。そのまま6月に退任してしまった。内山氏は6月7日に読売新聞グループ本社社長も退任している。
この退任をめぐっては、渡辺恒雄・グループ本社会長兼主筆との確執を指摘する声もある。
内山氏の会長続投が確実とみられていたこともあって、後任探しは難航。小坂健介・日本新聞協会副会長(信濃毎日新聞社取締役相談役)が会長代行を務めていたものの、会長不在の状態が続いていた。
少しずつ「押し紙切り」が行われている?
慣例の輪番制からすれば、次にお鉢が回ってくるのは朝日だ。だが、秋山社長が就任を引き受けるまでには時間がかかった。関係者によると、秋山氏は就任の条件として(1)「販売正常化」を推し進めること(2)「読売→朝日→毎日」の輪番制をやめて中日新聞などのブロック紙や地方紙からも会長に就任させること、の2つを提示。特に(1)をめぐって、調整が難航したという。
秋山社長は、元々「販売正常化」に積極的な立場で、11年の社内向けの新年祝賀会で、朝日新聞の部数が「800万部割れ」した経緯について
「(販売店の)ASAが抱える過剰予備紙を整理する道を選んだ」
と言明。「過剰予備紙」は、新聞各社は公式には否定しているものの、実際には配られない新聞が販売店に押しつけられているとされる、いわゆる「押し紙」だと受け止められている。朝日以外にも、毎日、産経などがジリジリと部数を減らしており、業界内では「地方紙を含めて、少しずつ『押し紙切り』が行われており、コスト構造の改善が進んでいる」との見方が大勢だ。
「販売正常化」の背景は消費税アップ
朝日や地方紙がコスト構造の改善を急ぐ理由のひとつが、「消費税問題」だ。政府・与党の社会保障・税一体改革案では、消費税率を「2010年代半ばまでに段階的に10%へ引き上げる」と明記されているものの、業界内では「部数がさらに大きく落ち込むため、消費税分は価格に転嫁できない」との声が多く、消費税率アップがコスト増となり、経営を直撃するからだ。
対照的なのが読売新聞だ。震災の影響で11年4月、17年ぶりに「1000万部割れ」したものの、早急に1000万部回復を目指したい方針だ。従来から、渡辺恒雄氏は「1000万部死守」を掲げており、この方針が揺るがないことが改めて確認された形だ。
この様な状況で、秋山氏は前出の条件(1)の具体的な内容として、「販売正常化委員長」のポストに、内山氏の後任にあたる白石興二郎・読売新聞グループ本社社長の就任を要求。新聞協会の総務担当によると、このポジションは「会長の意向で委嘱される」もので、読売新聞社を販売正常化の流れに引き込むことが、就任要請の狙いだ。
だが、前出のような「1000万部死守」という方針から、白石氏の就任には渡辺氏の了承が必要なのは確実で、社内調整に時間がかかった可能性もある。
結局、7月20日の会員総会では、白石氏の販売正常化委員長就任が決まっている。一定の妥協点は見いだされた形だが、実際に読売新聞社が販売正常化に積極姿勢を示すかは不透明だ。
なお、読売新聞社は、一貫して「押し紙」の存在を否定しており、押し紙問題を取り上げた09年6月の週刊新潮の記事で名誉を傷つけられたとして損害賠償を求めて提訴。11年5月の1審判決では読売側が勝訴しており、発行元の新潮社と筆者のフリージャーナリスト・黒薮哲哉氏が、計385万円の支払いを命じられている。今回の「販売正常化」についても、これが即「押し紙」廃止に結びつくのかは定かではない。