キヤノンの新卒採用説明会が、「学歴差別を露骨に打ち出しているのでは」とネットで論議になっている。
話題になっているのは、2012年度入社の新卒事務採用(夏期)説明会のインターネット予約受付画面。ネットにアップロードされたキャプチャー画像では、「事務系(東京大学の方)」「事務系(一橋大学の方)」といった具合に、有名上位大学の名が明記された予約枠が並んでいる。
「なんで千葉大、筑波大の枠がないのか」
たとえば、11年7月28日11時の東京開催の説明会は、東大、東京外語大、横浜国立大、早大、慶大、上智大の学生限定。翌29日の東京会場は10時と11時の回が、それぞれ早大、慶大、明大、青学大、立教大、中央大の学生が対象だ。
大学名のない学生は、「事務系」とだけ記されたフリーの予約枠に応募するしかない。29日の東京会場は、13時と14時の回はフリーの枠となっているが、受付画面の画像を見たところすでに「満席」。これ以外の、指定大学別の枠はまだ余裕があるようで、フリーの枠に予約が殺到したことが分かる。
新卒の採用活動は、学生が企業のHPにアクセスして自分の名前と大学を登録、企業から学生あてに説明会の日程がメールで届く、というのが一般的。その場合、個別の大学ごとに説明会が開かれるのは決して珍しくない。いわゆる会社主催の「OB訪問会」だが、他大学の学生には日程がわからないようになっている。今回のようにすべての学生に、ほかの大学の「枠」をはっきりと見せるケースはまれだ。
画面を見たネットユーザーからは、「学歴フィルター露骨すぎるwww」「学歴差別は当たり前だが、こういう露骨なことしたらイメージダウンひどいだろ」などの声が上がっている。「なんで千葉大や筑波大がないんだ」といった自分の大学名がない学生からの不満も出ている。
その一方で、大学別に選抜することは当たり前で、「自分が対象じゃないことが分かるし、こっちのほうが親切だ」「学歴差別を隠している企業に比べたら好感を持てる」といった意見もある。
「学歴なんてどうでもいい」とキヤノン
人材コンサルタントの常見陽平氏は、就活ノウハウサイト「就活の栞」の中のコラムで、「採用ターゲット校以外はセミナーの予約が取れない」「セミナーを抽選制にしてターゲット校の学生しか当選させない」などの学歴差別はよく行われていると指摘する。しかし、今回の件については、「ここまで露骨に可視化されたのはなかなかない」という。
キヤノンの担当者に聞くと、これはあくまで「説明会」であり、「選考会」ではない。定期採用は1か月ほど前にひと通り終わっているが、震災の影響で活動に支障も出た学生も多いため、夏期採用は、東北地方の学生をはじめ、「できるだけ多くの学生に参加していただきたい」という位置づけだ。
そのうえで、就職活動に苦しむ学生からの「出身校のOB・OGに話を聞く機会が欲しい」という要望を取り入れ、今回のように大学ごとの説明会を特別に開くことにした。説明会はその大学のOB・OG社員が参加するもので、枠は応募者とOB・OGが多い大学ごとに設けたという。
広報担当者は、「応募者が多いということは結果的にOBも多くなります。応募者が多いにもかかわらず、OBが少ないから、あるいは捕まらなかったから枠がないという大学はない、と考えてもらって大丈夫です」と話す。つまり、説明会を特別に設けられた大学は事実上、「採用実績上位校」ということだ。
「学歴なんてどうでもいいというのが社の方針。学歴差別を打ち出すつもりもなく、今回のネットの反応は予想外でした。自身の大学名のない学生の方々を中心に誤解を招いてしまったこともあり、もう少し表記に気をつければよかったかもしれません」
こうした結果、大学名のないフリーの枠が比較的早く埋まってしまう問題については、増枠を検討しているという。