企業の海外移転が進む可能性が高まっている。東京電力・福島原発事故の収束見通しが立たずに電力不足が深刻化するなか、法人税率の引き下げも環太平洋経済連携協定(TPP)への参加も先送り、そうこうしているうちに円高だけが進んでいって、国内企業は追い込まれている。
とにかく、国内企業は二重苦、三重苦の状況にある。経営者の不満は、もう爆発寸前だ。
社長100人のうち4割が「3年以内」に移転
日本経済新聞が行った「社長100人アンケート」によると、国内制度や経営環境が現状のままなら、「何らかの機能を海外に移転せざるを得なくなる」と答えた国内主要企業の社長(会長・頭取を含む)は39.3%(140社のうち、55社)にのぼった。 海外移転の対象となる施設は、「主力でない生産拠点」が20.0%、「一部の研究開発拠点」17.1%だった。
また、企業調査の帝国データバンクの調べでは、電力不足の対策として、拠点がある地域からの移転を考えている企業(599社)のうち、海外移転を想定している企業は14.0%あった。
2011年7月からは、東京電力と東北電力の管内では電力の使用制限がはじまり、自動車業界などは「木・金休業」で操業している。
日本経済団体連合会が7月12日に発表した「原子力発電推進を求める提言」によると、このまま電力不足が続けば企業活動や雇用維持の足かせになると指摘。電力供給に今後の見通しが立たなければ、生産拠点の海外移転や国内新規設備投資の抑制が避けられないとしている。
徐々に移転の動きは表面化しており、たとえば東レは2013年をめどに韓国に炭素繊維の工場を新設。パナソニックもアジアへの生産シフトを、4月に公表した事業計画で掲げている。内閣府によると、国内製造業の海外現地生産比率は年々上昇していて、1995年の8.1%から2010年は18%と過去最高を記録した。15年には21.4%まで上がると予想している。
「一企業の努力の限界を超えている」
かつて「世界の工場」といわれた中国も最近は人件費が上昇し、労働力の安いベトナムやタイに工場が移りつつある。しかし、国内企業の中国進出がなお止まないのは、中国の購買人口に魅力があるからだ。
一方でアジアなどの新興国は、自国の生産を優遇しているので輸入関税が高い。そのため、TPPへの参加を検討すらしていない日本の企業にとっては、早めに現地での生産体制を整え、現地消費を伸ばしたい思惑もある。
さらには円高で輸出が厳しいなか、ウォン安やユーロ安を背景に韓国勢や欧州勢が販売攻勢をかけていて、グローバル競争は激しさを増す。
トヨタ自動車ですら、決算発表時に小沢哲副社長が「日本でのモノづくりへのこだわりは一企業の努力の限界を超えている」と政府への不満をぶつけるほどだ。