「なでしこジャパン」が決勝へ。女子サッカーのワールドカップ準決勝(2011年7月13日)で、日本はスウェーデンに3-1で逆転勝ち。アメリカと世界一(18日)を争う。この快進撃には選手起用の妙があった。
優勝候補のドイツに勝ったからといって次も勝てるという保証はない。なんといってもW杯の準決勝である。佐々木則夫監督はスウェーデンを冷静に分析した。「相手はボールを動かすだけではなく、深いフィールドも使う」と。
スウェーデンは日本より身長で10cm以上も高い。体も強い。ドイツとは違った力強さがあった。「高い位置からプレッシャーをかけなければ」と戦法を決めた。これは日本のMFの負担を減らすことにつながった。
この分析とそれに対応できる作戦、選手を持ったことが今回の日本チームの強さである。そして、忘れてならないのは、日本はまともに戦っては世界に通用しない、との自覚だった。独自の戦法と戦略はそうしたところから生まれた。
「前線からの守備」戦術で先発起用した川澄が大仕事
佐々木監督がスウェーデン戦で打った手は控えの川澄奈穂美を先発メンバーに起用したことだった。
「前線で守備、攻撃とも走り回れ」
これが川澄に与えられた役目だった。川澄はスタミナのあることではチームでも有数の選手だった。「運動量を求められての起用でした。だから守備では相手にプレッシャーをかけ続けようと思っていました」と川澄は振り返った。
この川澄先発は日本の関係者、メディアも驚いた。こういうところに佐々木監督の深みのある作戦といろいろなタイプの選手を作っていた巧みさがうかがえた。
永里優希を外し、安藤梢と2トップを組ませた戦法は、前半19分にその川澄の同点ゴールという結果をもたらした。後半に入り、15分に澤のゴールで逆転すると、19分、飛び出した相手キーパーのクリアボールが川澄の足元に。すかさず29mの位置から無人のゴールめがけて放ったループシュートが決まり、この試合2点目。このロングシュートはFIFAの「ゴール・オブ・ザ・デイ」に選ばれた。
準決勝という重要な試合で、始めて先発メンバー変更をやってのけた佐々木監督の勝負勘と選手使いの妙が光った。「同点に追いついたことで勝利が見えた」と選手たちは走りながら感じていたそうである。「北京五輪ではベスト4で力尽きた。しかし、今回はファイナリストになりたい、と思って戦っている。そこが違う」と佐々木監督。
勝ったことのない米国戦ではどんな秘策を出してくるのか。いまや国際語になった「なでしこ」に世界が注目する。「歴史を変える」と主将の澤穂希は言い切った。(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)