牛丼チェーン、吉野家の一部店舗に券売機が導入された。お客とのコミュニケーションを重視するため、吉野家はポリシーとしてあえて導入を避けてきただけに、驚きが広がっている。
吉野家広報によると、2011年7月13日現在、券売機が導入されているのは東京、新宿や千葉の柏の店舗など。2010年からごく一部の店舗で導入しているという。
「券売機を置かないことで大事にしたいことがある」
牛丼チェーンでは、松屋が券売機を導入しているが、吉野家の導入はかなり衝撃だ。吉野家の安部修仁社長は2008年にプレジデントロイターに掲載されたインタビューの中で、「なぜ券売機を置かないのか」と聞かれ、「券売機を置かないことで大事にしたいことがある」と力説している。
券売機を置くと確かに生産性は上がるものの、一方で「ご注文は何になさいますか」という接客用語が一つ減るほか、代金の受け渡しという客とのやりとりがなくなる。安部社長は「牛丼を食べる刹那的な時間ではあるけれど、こうした、お客さんとのメンタルな繋がりを大事にしていきたい」としていた。
それだけにネットでは、「勘定待ちが無くなるならそっちのほうがいい」と歓迎する見方だけでなく、「お客様への真心はどうなったんだ?」「ぶれ過ぎだ」といった書き込みが多数寄せられた。
吉野家広報「あくまで実験的にやっていること」
一体どういう考えなのか。吉野家広報担当者は「あくまで実験的にやっていることです」と語る。
店舗によっては、繁盛していたとしてもその後、近くに他社の競合店舗が出てきたりして客数が減ることがある。そうした店舗を潰すのではなく維持していくために、券売機を入れて人手を減らしても店舗を回せるか試しているのだという。
「お客様に満足していただくためにはある程度の店舗数も必要です。利益が出ないことにはお店も続けられませんから。ただ、券売機は現在のところ、まだ試しているという段階。お客様がたくさんいらっしゃる店舗には向かないと思いますし、お客様との接点を大事にする吉野家の『粋なサービス』という基本的な考え方も変わりませんので、これが今後他の店舗にどんどん普及していくとういうこともありません」
ちなみに、吉野家では「つゆだく」や「つゆぬき」といった特殊オーダーが存在する。券売機のある店舗では店員に食券を渡す際に伝えればいいのだそうだ。