福島県南相馬市は7月12日、市外に避難している市民約3万人に対し、8月末までに避難所を退去して自宅や市内の仮設住宅などに戻るよう求める文書を送った。これに対し、避難者の多くは「もちろん一日も早く帰りたい。でも放射線量は十分安全だと言えるのか」と、唐突な「帰還計画」の押し付けに猛反発している。
送付された文書では、公共施設などに開設された1次避難所の場合は7月中に、宿泊施設などの2次避難所は8月末までに、それぞれ退去するよう促している。市民の復興への参加を期待する「市民の帰還計画」の一環で、あくまでも要請で強制ではないと説明している。
南相馬市の一部は、原発事故による警戒区域や緊急時避難準備区域などに組み込まれている。このため市は、自宅に戻れない人に提供する約2500戸の仮設住宅の完成を急いでいる。
南相馬市を離れて生活している住民は、福島県内に約1万人、新潟、宮城、山形県に各2000人以上など、鹿児島県を除く46都道府県に広がっている。各地で12日から、市職員による避難者への説明会が始まった。
会場の一つ、南相馬市中心部の文化センターで行われた説明会の様子を河北新報が伝えている。それによると、出席者からは「放射線浴びに戻れと言っているのと同じだ」「仕事や生活環境を補償してくれるのか」「病院も学校も元に戻っていないのに」などと、厳しい批判の声が上がった。再び原発事故が起きた場合の再避難の方法などについても不安を感じている人たちは、「どうぞ、お帰りください」といわれても、おいそれと踏ん切りをつけらないのが現実だ。
行政が「帰還計画」を急ぐ理由の一つに、避難所になっている公共施設の機能を元に戻したいという社会的要請、ホテル、旅館などを本来の宿泊施設にしたいという経済的要請がある。住民の安全・安心か、経済があっての復興か、という問題がここにも影を落としているようだ。