政府・与党は2011年6月30日の社会保障改革検討本部(本部長・菅直人首相)で「税と社会保障(社会保障と税)の一体改革案」を正式決定した。増大する社会保障分野の財源を確保するため、「2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げる」のが柱。当初「15年度までに10%」としていた時期は与党の反発で幅を持たせ、閣議決定も先送りした。
一体改革案は、(1)社会保障の充実、(2)給付拡大に歯止めをかける「効率化」、(3)消費税引き上げ――の3つの連立方程式をどう解くかがポイントだった。
一体改革案にはどこも冷ややか
(1)は、子育て支援や低所得者の基礎年金加算など社会保障分野で計3.8兆円程度の財源が必要とする一方、(2)で医療費の窓口負担上乗せ(100円程度)など計約1.2兆円の給付抑制策を講じるとした。この結果、2015年度時点で差し引き2.7兆円程度の新規財源が必要になると試算し、これを補うため、(3)消費税の使途を社会保障分野に限定したうえで、2010年代半ばまでに計5%の税率引き上げを段階的に実施する方針を打ち出した。
これに対し、大手紙の論調は押しなべて冷ややかだ。当初はこの改革に「政治生命をかける」と語っていた菅首相が、今や政権延命にしか関心がなくなったためか、指導力を発揮しなかったのは疑いない。震災の影響は割り引いても、社会保障の中身の議論などが深まらなかったのだから、当然といえる。
だが、各紙の批判は、主に増税時期をぼかしたことに集中。早急に消費税率引き上げに踏み出すよう求める論調が目立つ。
「読売」は、決定直前の6月30日朝刊(社説)で、消費増税の時期や税率に幅を持たせる動きを批判。決定後の7月1日社説でも2日連続で取り上げ、時期に幅を持たせたことは批判しつつ、「10%」という率について、「おおむね」などの表現を加えることを「はねつけた点は評価していいだろう」として、早期の与野党協議を求めた。
「毎日」も2日の社説で「覚悟が伝わってこない」として、政府原案から時期が後退したことなど、日本の財政状況などを引き合いに批判。「産経」も同日の主張欄で「引き上げ時期という核心部分をあいまいにした」と批判。「日経」の1日社説も同様に「一体改革の低をなしていない」と切り捨てた。
政府がわが身を削ろうとしないのが問題と指摘
「朝日」は1日社説では民主党が初めて増税を認め、10%と明記したことを「半歩前身」と評価しつつ、閣議決定しなかったことへの批判を中心に論じた。10日になって、再び社説で「増税をできるだけ先送りしたいという『熱意』こそ目立ったが、社会保障改革についての議論はまだ十分とはいえない」と、各紙社説の中では一番詳しく社会保障改革の中身を論じ、国民の安心には力不足だとした。
異彩を放ったのが「東京」。2日社説で「行政改革はどうした」と題して、増税をいつまでも決められないのは、政府はわが身を削ろうとしないことを国民が「気がついているからだ」と断じ、公務員の人件費2割削減の公約などの実行が増税の前提、との論を展開している。
総じて、今回の一体改革案の報道は、消費税が最大に焦点とされる中、例えば年金制度でも、民主党の金看板である「税を財源とした最低保障年金」は棚上げされるなど、腰をすえた論議にはほど遠かった。最終盤の民主党内の議論で、経済状況によって税率引き上げを回避できる文言が押し込まれたが、これは過去10年以上、増税を先送りするための理屈として使い古された代物だ。