震災被災者の高速道路無料化で、東北地方の高速道インターでは深刻な渋滞が起きている。被災証明書の発行基準が甘く、ほとんど「だれでも無料」という状態になっているためだ。ETC利用者は激減、一般レーンに車が列をつくる。東日本高速道路は、料金所の職員を増やすなど対応に追われている。関係者からは、国の制度設計の甘さを批判する声も上がっている。
東日本高速道路の東北支社によると、盛岡と盛岡南の両インターチェンジでは、それまで8割程度を占めていたETCに利用者が、無料化の始まった6月20日以降は3割に減った。料金所で証明書と身分証を提示する「無料化ドライバー」が一般レーンに数珠繋ぎになる。無料化最初の休日だった6月25日には、盛岡IC下り線で2.5キロの渋滞が起きた。
このため、東北支社では約1200人だった料金所職員を100人増員したが、これから夏休みに入ってさらに交通量が増えると、あちこちで深刻な渋滞が起きかねないという。
1日停電しただけで簡単に被災証明
岩手日報などによると、岩手県内では34市町村のうち少なくとも16市町村で、全戸に被災証明書が発行されたようだ。行政が復興にかかりきりの沿岸部より、被害が軽微だった内陸部が大半だ。
停電や断水などでも被災証明書を全戸発行するのは盛岡市、一関市、八幡平市、平泉町、葛巻町など。盛岡市は当初、国が想定する「被災」に停電などは含まれないと判断した。だが、近隣町村が「全戸発行」を決め、市民からの問い合わせも相次いだため、急きょ発行を決めた。横並びで甘い基準を採用した市町村からも、そうでない自治体からも「基準がバラバラだと不公平。国がちゃんと基準を示すべきだった」と批判が出ている。
罹災証明書は市町村が内閣府指針に沿って住宅などの損壊状況を確認して発行するが、被災証明書の発行基準は市町村に委ねられている。このため、市町村から問い合わせを受けた国土交通省は「発行はあくまで市町村の判断」という立場を崩していない。
岩手県内に限らず、宮城、福島、さらに茨城県でも、多くの自治体が本人や家族の申し出だけで、あるいは無条件で全戸に被災証明書を発行してきた。自治体にしてみれば、横並びの「サービス」の機会を住民に与えないというのは理屈が立ちにくく、証明発行の厳密な運用は手間ひまとコストがかかるばかり。起きるべくして起きた、もう一つの「高速料金騒動」といえそうだ。