テレビ放送の完全デジタル化を半月後に控え、FMラジオでテレビの音が聞けなくなるという問題が、急にクローズアップされている。テレビから多くの情報を得ている視覚障害者や、被災地の避難所への影響も指摘されている。
アナログテレビの音声は、FMラジオと同じ形式の電波で放送されており、総務省が割り当てている周波数の帯域も近かった。
視覚障害者の多くがFMラジオを利用
FMラジオには76~90メガヘルツが割り当てられているのに対して、テレビ音声の1~3チャンネルは、そのすぐ上の90~108メガヘルツ。4~12チャンネルも170~222メガヘルツと、比較的近い帯域が割り当てられている。いずれも「VHF帯」と呼ばれる帯域の電波で、同じアンテナで受信できる。このため、「テレビの音声も受信できる」とうたって販売されるFMラジオも多かった。
ところが、7月24日にアナログテレビが停波してしまうと、FMラジオでテレビの音声を聞くことができなくなる。デジタルテレビは電波の形式が異なる上に、周波数帯域も470~770メガヘルツと異なる(UHF帯)ためだ。
このことを問題視する声もある。そのひとつが、視覚障害者の団体「全日本視覚障害者協議会」(全視協)。厚生労働省が06年に行った調査によると、視覚障害者の情報入手先(複数回答)としてラジオを挙げた人は49.3%だったのに対して、テレビは66.0%と最も多かった。テレビから情報を入手していた視覚障害者の多くがFMラジオを利用していたとみられる。
「避難所住民にとって問題ではないか」
さらに、政府の原子力災害現地対策本部長を務める田嶋要経済産業政務官も、2011年7月11日午後、ツイッターで
「FMラジオでテレビ音声聴こえなくなるのは、視覚障害者はもちろんのこと、広く避難所住民にとって問題ではないか。総務大臣にそう申し伝えました」
と、避難所で暮らす被災者への影響を懸念している。岩手・宮城・福島の3県については、アナログ放送が12年3月まで継続される見通しだが、この3県以外にある避難所への影響について言及しているものとみられる。
もっとも、ラジオとデジタルテレビを受信できる「ワンセグテレビ」も、すでに07年頃から市販されてはいる。ただし、価格が数万円するものがほとんどで、高くても数千円で買えるラジオとは、「お手軽感」で相当な隔たりがあるのは間違いない。