東日本大震災後の電力不足に伴い、「スマートグリッド」(次世代送電網)の注目度が急速に高まっている。
停電対策や再生可能エネルギーの導入に必要不可欠といわれるが、電力業界とは縁の薄そうな、IT業界も注目。米国ではグーグルが参入、日本でもソフトバンクの孫正義社長などが興味を示すなど、スマートグリッドに多くの企業が関心を寄せている。
再生可能エネルギーの「肝」
スマートグリッドとは、電力の流れを通信やIT技術によって、需要と供給の両方から制御し、きめ細かくかつ自動的に最適化する送電網のこと。米国のオバマ大統領が「グリーン・ニューディール政策」の柱として打ち出したことでも話題になった。
米国では停電問題が深刻。電気事業連合会の「電気事業の現状 2009」によると、日本では年間の停電時間が1軒あたり16分なのに対して、米国ではニューヨークで12分、カリフォルニアでは162分にのぼる。スマートグリッドは、そんな停電対策の「特効薬」とされる。
日本では電力供給は安定しており、すでに「賢い(スマート)」ともいわれたが、震災後は状況が一変。いま、急速に導入機運が高まっている背景には、菅政権が掲げた再生可能エネルギーへの転換方針があり、スマートグリッドはその「肝」ともいわれている。
スマートグリッドが実現すれば、原子力や火力、水力、風力、太陽光発電などの発電の担い手を一元管理できる。
たとえば、風力や太陽光発電はその日の天候や気候によって発電量が左右され、それによって需給バランスが崩れる。それを風力発電がダメなら火力発電から調達するなど、組み合わせて安定供給することが可能になる。
菅直人首相も前向きといわれる、発電部門と送電部門の分離(発送電分離)もやりやすくなる。
「見える化」技術で家庭でも節電
一方、消費者(需給者)側は、電力会社が設置した検針メーターが「スマートメーター」と呼ばれる電気メーターにとって代わり、家庭やオフィスなどの電力使用量をリアルタイムで把握できるようになる。それによって、電力を発電する側はスマートメーターで得た情報をもとにした電力の供給調整が可能になる。
また、スマートメーターは家庭での「節電」に役立つ。米国のグーグルは電力会社と提携して、スマートメーターと連携するソフトウェアを提供。各家庭で、家電製品ごとの電力使用量をリアルタイムで把握できるようになった。
それによって電力不足が生じた場合、たとえば大型の蓄電システムなどでプールしておいた電力や、電気自動車やガスエンジンといった他の電力源から余剰電力を移すことで電力を調整することもできるようになる。
スマートグリッドは「電力の見える化」技術。導入すれば、昼と夜、季節の違いなどによる電力使用量の変動を平準化でき、それによって効率よく電力を供給できる仕組みで、同時に電気関連事業に参入したい企業の「敷居」をも下げるようだ。