中国の江沢民前国家主席の動向をめぐる報道が、混乱をきわめている。一時は日本を含む周辺諸国のメディアが「死亡説」を相次いで報じた。国営の新華社通信が「単なる噂」と否定したものの、なお憶測が広がり続けている。
江氏をめぐっては、2010年ごろから健康不安説が取りざたされ、11年7月1日に行われた中国共産党創建90周年の祝賀大会を欠席したことから、「重体」説、さらには「死亡説」が一気に信ぴょう性をもって語られるようになった。
香港のテレビが皮切り、日本では産経が「死去」断定
例えば、香港のテレビ局ATVは6日夕方、「江沢民氏が病死した」などと報道。1997年の香港の中国返還時のスピーチなど、これまでの江氏の活動をまとめたVTRを2分以上にわたって流し、特別番組の予告まで行う念の入れようだった。ただし、その後、「公式には確認されていない」と軌道修正。特別番組も行わなかった。
また、山東省のニュースサイト「山東新聞網」が、トップページに大きなバナー画像を掲載し、「敬愛する江沢民同志は永遠に不滅」との見出しを掲げたが、後にサイトごと閉鎖されてしまった。
韓国KBSも「『死亡説』が流れている」などと報じた。KBSは、病院前の警備員とのやり取りをもとに「人民解放軍傘下の301病院に入院したことが確認された」とした上で、「昨晩(5日夜)にはすでに死亡しており、高官が中央に集められている」といった北京の外交消息筋の話を伝えている。
翌7月7日の10時前には、日本のメディアでも産経新聞が「日中関係筋」の話として、江氏が7月6日夕方に死去したと報道。関係者の話として、江氏の様子を「脳死」と伝えた上で、入院先の301病院の様子を
「厳戒態勢が取られ、共産党や政府、軍の要人が弔問に訪れている」
と報じ、ウェブでPDF版の「号外」も発行、「詳報は夕刊フジで」と続報に期待を抱かせた。
新華社通信は「単なる噂」と否定報道
だが、国営新華社通信は7日昼、信頼できる情報源からの情報だとして死亡説は「単なる噂」と報道。これを受けて、香港ATVも訂正を出した。これを受けてか産経新聞もトーンダウンした模様で、同日夕方の夕刊フジ(東京C版)では、「死亡」とは書いているものの、1面ではなく4面に背景の解説を加えた扱い。明らかにトーンダウンしている。
北京の状況はどうなのか。
「7月6日に301病院の前を通ったが、特段変わった様子はなかった」
と話し、「死亡説」に懐疑的なのは、北京在住ジャーナリストの陳言さんだ。陳言さんは、1997年にトウ小平氏の死去を特報した加藤千洋・朝日新聞中国総局長(当時)のケースを引き合いに、
「加藤氏は、トウ氏が死去した301病院の前に張り付いて、病院に入っていく車のナンバーから党幹部の出入りを確認している。その上で、『死亡』と打った。それに対して、今回の『死亡説』の根拠は噂の域を出ないものばかりで、なにひとつ確認されたものがない」
と、取材の甘さを指摘している。
ただし、死去が確認されていないにしても、各メディアでは「容態は深刻」との見方が大勢だ。訃報を事実上「公式発表」するはずの新華社通信が報じる前に、こうした死亡説が多数流れる背景には、「中央政府が国内メディアに対して訃報の準備をするように指示したものの、『解禁』前に情報がもれたか、フライングによるのでは」という、うがった見方もある。