福島第1原子力発電所の事故処理が続くなか、被害を受けた人への賠償についてツイッター上で、ある「情報」が飛び交った。福島第1原発から離れた地域に住んでいても、損害を受けた分の費用を請求できるというのだ。
放射性物質が不安で空気清浄機やミネラルウォーターを購入した代金まで、東京電力に支払いを求められるというが、本当なのか。
空気清浄機や水の代金も「請求」
「東電に原発事故でかかった費用を請求できる」との内容がツイッターに出回ったのは、2011年7月6日。書き込んだ本人が、東電のカスタマーセンターに直接問い合わせたようで、首都圏在住でも、購入した物品の「請求用紙」を東電からもらえる、とした。
その後、この人物は数回にわたって関連内容を投稿。東電からは、原発事故に関連して支払った金額はすべて「請求書」に書いてよいと聞いて、本人は水や空気清浄機の代金を請求したという。ただし、実際に補償金を受け取れるかどうかは国の判断待ちだと説明している。
複数のツイッターユーザーは、「東電へ請求可能」という内容を「リツイート」(再投稿)した。それが繰り返されて大勢に広まっていった。ツイッターやネット掲示板には、「デマじゃないか」と疑う意見が出た半面、驚きの声もあった。中には「原発事故でストレスたまって、ステーキ食べ続けた。請求しよう」と、悪乗り気味の書き込みも少なくない。
仮に「原発事故」を名目に請求できるのであれば、どこまで認められるのか線引きが難しい。例えば東京に住んでいた人が、放射能汚染を恐れて海外に一定期間避難していたケースでは、その間の生活費すべてが対象になるのか。原発とは何の関連性がない支払いでも、強引に理屈付けをして「原発のせいだ」と言い張る悪質な申請も出てくる恐れがあるだろう。
東電広報に取材すると、「請求できる」という解釈とは少々違っているようだった。
「半径30キロ圏内」の補償だけが決まっている
現段階で東電による支払いが決まっているのは「仮払い補償金」で、対象は「避難区域」や「計画的避難区域」、「緊急時避難準備区域」といった福島第1原発周辺地域に住んでいた人だと東電広報は説明する。4月以降に実施された1回目の仮払いでは一般世帯100万円、単身者に75万円が支払われた。7月5日には第2弾の実施を発表、1人10~30万円が仮払いされる予定だ。
原発の補償問題は、文部科学省に設置された原子力損害賠償紛争審査会で審議されている。補償対象となる範囲や内容、誰が補償を受け取れるのか、などを話し合い、順次定めていく。これまでに「第二次指針」まで出されているが、東電によるとこれまでに首都圏を含め、原発から半径30キロ圏内以外の区域は対象とはなっていない。
では、首都圏在住者でも「東電に請求書を出せる」という内容は事実なのか。東電広報は、「『被害概況申出書』という書式は出しています」と話す。原子力損害賠償紛争審査会の今後の話し合いによっては、半径30キロ圏外についても補償対象に含むという決定を下すかもしれない。可能性がある以上、現時点では対象外の区域の人に向けても、求めに応じて「被害状況」を聞くという趣旨のようだ。しかしこれは、東電に対して賠償を請求できるということとは一線を画す。ツイッターに投稿した人物が「支払ってもらえるかどうかは、国の判断による」としていたのは、この点を意味しているとみられる。
「請求」という言葉が先走ったようだが、要は「被害を受けたと申し出ることはできるが、すべては国の判断」というところだ。