これではまるで、菅首相が民主党にストレステスト(耐性試験)をしているみたいだ――こんな悲鳴が党内から聞こえてきそうだ。海江田経済産業相が先に行った「原発安全宣言」をひっくり返す形で、菅首相が全原発ストレステスト実施を突如、打ち出したからだ。
メンツ丸つぶれとなった海江田経産相は2011年7月7日、参院予算委員会で、先の安全宣言と今回のストレステスト方針をめぐり原発立地自治体が混乱していることを受け、「いずれ時期が来たら私も責任を取りたい」と引責辞任の可能性に触れた。
「『辞める』『退陣』という言葉を使ったことはない」
海江田氏の答弁の様子は、「菅首相の下ではもうやってられない」という投げやりな気持ちがにじんでいるようにも見えた。菅首相による「ストレステスト」に耐えきれなかったのだろうか。
一方、菅首相はやる気満々だ。民主党内に「ストレステスト」を行い、自分についてくる人材だけで周囲を固め直し、「新しい体制」を築こうとしているのではないか――そんな見方すら一部で出始めている。
というのは、第3次補正予算編成をめぐり、菅首相が微妙な言い回しを始めたからだ。第2次補正予算は菅首相が組むが、第3次補正予算は「新しい体制」で――菅首相と民主幹部らは文書でそう確認している。従来は、「新しい体制」とは新首相のもとでの体制と理解されてきた。
ところが、この「新しい体制」の意味について、菅首相は7月6日、衆院予算委で「新しいひとつの政権の枠組みだ」と答えた。これでは、菅首相のもとでの大幅改造内閣も「新しい政権の枠組み」ということになってしまい兼ねない。
さらに菅首相は同じ委員会で、「私自身は『辞める』『退陣』という言葉を使ったことはない」とも話している。居直り、開き直りとも受け取れる答弁だ。続投への強い意欲の現れと受け止められている。
内閣不信任決議案が再提出される?
「新しい体制」をめぐる憶測は、内閣改造だけではない。衆院解散・総選挙のうわさが浮かんでは消え、消えては浮かんでいる。7月7日付の日経新聞朝刊でも、関連記事の中見出しで「解散への布石か」とうたっている。菅首相が「脱原発解散」に打って出て、その後、「新首相」としての菅氏のもと、「新しい体制」が築かれる可能性も考えられる。
菅首相のやる気に引きずられる形で、「8月中に退陣」説も先行き不透明になってきた。このままでは菅首相のペースになってしまうという懸念からか、自民党からは「掟破り」の内閣不信任決議案の再提出を示唆する声も出てきた。さらには、民主党の渡部恒三・最高顧問が「(再提出されれば)賛成する」と発言するなど相乗りムードも漂い始めた。
通常は「一事不再議」の慣例から、同じ決議案の再提出は認められない。しかし、あくまで慣例なので、法的には問題ないという議論が背景にある。ほかにも提出理由を前回の決議案とは変えることで、「別の決議案だ」という理屈付けが可能だと指摘する声もある。
いずれにせよ菅首相は、「満身創痍、刀折れ、矢尽きるまで、力の及ぶ限りやるべきことをやっていきたい」(7月6日、衆院予算委)と述べている。原発ストレステストという新しい「矢」を繰り出してきた菅首相は、まだまだ二の矢三の矢を用意しているのかもしれない。