原子力発電をめぐる「世論対策マニュアル」の存在に注目が集まっている。「停電は困るが、原子力はいやだ、という虫のいいことをいっているのが、大衆であることを忘れないように」。こんな「上から目線的」な表現が並び、作成した団体も「一部の表現については、不適切」としている。
日本原子力文化振興財団がまとめた「原子力PA方策の考え方」。「PA」とは、大雑把に言えば「PR活動」のようなものだ。
マスコミ関係者と個人的関係を深めるよう勧める
科学技術庁(当時)の委託を受け、同財団が報告書として20年前の1991年にまとめたものだ。「しんぶん赤旗」が2011年7月2日付でその内容を報じたことで、インターネットでも話題となった。
赤旗記事では、報告書について「国民の不安感や不信感の広がりに対処するため国民を分断し、メディアを懐柔する指南書」と指摘、「国民をさげすみ、愚弄する姿勢をあけすけに示している」と批判している。
この報告書については、雑誌「放送レポート146号」(1997年)が、全文ではないが11ページにわたって長めに転載している。放送レポートをみてみると、報告書をまとめた委員会の委員長は、「中村政雄(読売新聞社論説委員)」氏だと書いている。
対マスコミに関する報告書の記述を拾ってみると、
「スポークスマン(役人を含む)を養成する。(略)スポークスマンの考え方が新聞記者間に浸透するようになる。一種のマスコミ操作法だが、合法的世論操作だ」
などとある。ほかにも、人気キャスターを「ターゲットに」と指摘し、時折会合をもつよう促している。広報担当官にはマスコミ関係者と個人的関係を深めるよう勧め、「つながりが深くなれば、当然、ある程度配慮し合うようになる」としている。
財団側「一部、不適切表現も」
対「大衆」という点では、こんな表現が続く。
「女性(主婦)層には、信頼ある学者や文化人等が連呼方式で訴える方式をとる」「新聞記事も、読者は三日すれば忘れる」「主婦の場合、自分の周りに原発がなければ、原発を他人事としか受け取っていない」――
日本原子力文化振興財団にきいてみると、確かにこうした報告書を1991年にまとめているという。単発の報告書で、91年以降の改訂版はない。広報戦略を立てること自体は「どこでもやっていること」とし、問題ないとの考えを示した。
しかし、「上から目線」と受け取られる表現が少なくないことについては、「20年前のものとはいえ、一部の表現については、不適切なものがある。反省しなければならない」と答えた。
もっとも、報告書には、なかなか説得力のある専門家批判も書かれている。
「医者の放射線の知識は極めてプアだときく。しかし、専門家意識だけは持っている」 「日本の専門家(の言うこと)は難しすぎる。本人がよくわかっていないからではないか。それならもっと勉強すべきだ」