スズキの鈴木修会長兼社長が東海地震や中部電力浜岡原発の事故を想定し、浜松市周辺の工場や研究施設を分散・再配置する方針を表明したことが波紋を広げている。
ホンダ創業の地である浜松市には現在も本田技研工業浜松製作所があるほか、ヤマハ、河合楽器製作所、ローランドの楽器3大メー カーが本社を置き、隣の静岡県磐田市にはヤマハ発動機の本社がある。
オートバイと楽器の町、浜松市を中心とする静岡県西部地区には工場が集中しており、ヤマハ発動機はじめ各社が有事の危機管理を検討し始めた。
地震、津波、液状化、原発の4重苦
鈴木会長は2011年6月23日の記者会見で、「地震による津波や液状化現象、原発事故などを想定すれば、工場の再配置は経営者として避けられない」と述べた。鈴木会長は地震、津波、液状化、原発事故を「四重苦」と表現。スズキが軽自動車と小型車のエンジンを生産する静岡県牧之原市の相良工場が「浜岡原発から約11キロの地点にある」とし、万一、事故が起きれば、同社の自動車生産が全面ストップするとした。
さらに「二輪技術センター(磐田市)は海辺まで200メートル」などと具体例を挙げ、「集中した拠点を分散しなければならない」と述べた。スズキは浜松市の本社を中心に国内6工場は静岡県西部と隣接の愛知県にある。鈴木会長は「スズキの企業規模から、九州などへの移転は難しい」として、 移転先は「静岡県内が中心になる」との見方を示した。移転には数千億円程度が必要とみられ、具体的な移転時期や場所の検討は明言しなかった。
鈴木会長は東京電力の福島第1原発事故の被害を浜岡原発に置き換えて想定し、多くのスズキの拠点が浜岡原発から30キロ圏内の人口密集地にあることを改めて認識したとみられる。鈴木会長は東海地震と浜岡原発のリスクを認識するリアリストの経営トップとして知られ、菅直人首相が浜岡原発の 運転停止を要請した際も、
「国の最高決定権者として正しかったのではないか。自分がもしそういう立場だったら、同じようなことをしたと思う」と理解を示した。
牧之原市では10社中6社が市外移転検討
スズキの拠点分散・再配置について、静岡県は「高台や海岸から離れた適地を紹介するなど、スズキが県内にとどまるよう全面協力したい」としている。しかし、移転が避けられなくなった相良工場がある牧之原市などへの影響は大きい。同市は「市内の大手企業10社に問い合わせたところ、6社が 東海地震と原発事故のリスク分散のため、市外への移転を検討していると回答してきた」と困惑を隠せない。
浜松市はヤマハ、河合楽器製作所、ローランドの3大メーカーで、ピアノ生産の国内シェア100%を占める。磐田市が本社のヤマハ発動機も基幹工場がスズキと同じく浜岡原発から30キロ圏内にあり、「有事の際のパックアップを検討する必要がある」としている。
ただ、オートバイと楽器の町、浜松市は周辺に系列の部品メーカーなどが多数集積しており、工場の分散・移転は必ずしも容易でない。