朝鮮民謡の「アリラン」が中国の国家無形文化遺産に指定され、韓中の歴史認識問題を背景に波紋が広がっている。
中国が指定したのは、東北部にある吉林省・延辺朝鮮族自治州に伝わるアリランだ。中国メディアが2011年6月21日にこれを伝え、韓国では「朝鮮人の民族文化であるアリランが中国に奪われてしまう」と反発の声が上がっている。
「中国が高句麗を自国の歴史に取り入れる一環」と警戒
アリランは高麗時代末期に歌われたのが始まりとされる民謡で、各地に歌詞やメロディーの違うご当地アリランが存在する。延辺のアリランもその1つだ。
延辺は古代国家の高句麗(紀元前37年~668年)だった場所に位置する。そのため、韓中間で続いてきた、「高句麗がどちらの国の歴史に帰属するのか」という論争も絡み、反発は過熱する。
高句麗は現在の中国東北部から北朝鮮にかけて存在した国家で、中国からすると、高句麗は中国の地方政権の1つであり、朝鮮半島の現在の北朝鮮の部分までが中国の領域だったとの見方が強い。一方で韓国は、高句麗が北朝鮮や韓国の祖となった朝鮮民族の国家だとして反発している。
朝鮮日報によると、韓民族アリラン連合会は6月21日、中国がアリランを無形文化遺産に指定したことについて、中国が高句麗の歴史を自国の歴史に組み入れようとする試み、「東北工程」の一環とするとの声明を発表。「今後ユネスコの世界無形文化遺産に登録するための準備作業である可能性もあり、単純な問題ではない」と指摘したという。
韓国政府は2012年、世界遺産に申請する予定
中国では国内に住む朝鮮族を対象に融和政策を見せてきた。1987年に発行した貨幣には韓服姿の朝鮮族が描かれ、2008年の北京オリンピック開幕式では朝鮮族の舞いや踊りが披露された。朝鮮族の「農楽舞」などもすでに国家無形文化遺産に指定されている。こうした経緯もあって、韓国では「文化が奪われる」と警戒する声が多い。
韓国政府は国内すべてのアリランを収集し、2012年にユネスコの世界文化遺産に申請するとしている。
中央日報によると、鄭柄国・文化体育観光部長官は6月23日、「延辺朝鮮族アリランも私たちのアリランの一部」「中国が私たちの歌を自国の無形文化財として登載したのにはややあきれる」としたうえで、「延辺にアリランがあるということは、そこが私たちの文化の領域であることを反証している」と強調したという。