福島第1原子力発電所の事故で、放射能汚染水を処理する浄化システムが本格稼働以降、トラブル続きだ。中でも放射性セシウムの吸着装置は、スタート早々に問題点が発覚し、一時システム全体を止める原因ともなった。
この装置をつくった米キュリオン社は、2008年創業のベンチャー企業。日本とのかかわり、技術力の程度、など不明な点が多い。同社のウェブサイトを見ても、過去の実績は見当たらない。
「イオン特殊媒体」と呼ぶ独自の素材が売り物
2011年6月17日に稼働を始めた高濃度放射能汚染水の浄化システムだが、開始から5時間で停止した。放射性セシウム吸着装置が短時間で基準の放射線量に達したのだ。当初は1か月に1回の交換を想定していた装置だが、予想外の事態に陥った。運転再開後の22日、今度は除染能力が目標の20分の1程度しか達成しておらず、調査の結果、弁の開閉ミスで汚染水が装置に流れていなかったことが判明。その後もたびたび配管や弁の不具合が発生し、浄化後に原子炉に戻す「循環冷却」が順調に進むのか、不安が募る。
浄化システムは、日米仏4社が共同で組み上げた。日立製作所や東芝、仏アレバ社といった大手企業と共に、創業3年目の米キュリオン社の名が並ぶ。同社は核廃棄物処理を専門にしており、放射能に汚染された水から放射性物質を除去する「イオン特殊媒体」と呼ぶ独自の素材を有している。
東京電力の発表資料を見ると、吸着装置には3種類のゼオライトを「特殊媒体」として使い分けている。キュリオン社によると、福島第1原発では緊急冷却の際に海水を用いたため、同社の特殊な素材を使わないと吸着が難しいという。除去した放射性物質は最終的に固めてガラス化するというのも、同社独特の技術だ。
キュリオン社は3月29日、「当社の汚染水浄化素材を福島第1原発で提供可能」と発表した。「イオン特殊媒体」は、1979年の米スリーマイル原発事故でも活用されて成果を上げたものを応用して開発し、現在は同社が特許を申請中だ。同社のジョン・レイモントCEO(最高経営責任者)はテレビのインタビューで、「東電は(汚染水処理に)必要な技術提供先を探す委員会があり、長い協議を経て今回、当社が呼ばれることになりました」と説明した。
ウェブサイトに過去の実績掲載されていない
キュリオン社が、放射性セシウムの吸着装置を東電に納品したと発表したのは、2011年6月2日。発表の中で、装置の完成まで5週間という異例の短期間だったと明かしていることから、4月下旬には東電から同社へ発注が完了していたと見られる。その直前の4月17日には東電が、事故収束への工程表を発表し、「ステップ1」として汚染水処理施設の設置を掲げていた。
だが、同じ浄化システムに参加した世界最大の原子力企業の仏アレバ社や、東芝などと比べると、ベンチャーのキュリオン社の採用は不透明感が否めない。レイモントCEOは「長い時間をかけて協議した」と話すが、待ったなしの状況で「藁にもすがる思い」だった東電が、「スリーマイル原発事故でも効果を上げた素材と技術」をアピールするキュリオン社の採用に走ったかもしれない。
レイモントCEOはかつて、核廃棄物処理会社「ニューケム(Nukem)」の社長兼CEOを務めたが、ニューケムは2007年に米最大手の「エナジー・ソリューション」社に買収された。キュリオン社では、そのエナジー・ソリューション出身者が副社長に就いている。経営陣を見る限りでは、日本との太いパイプを持っていそうな人物は見当たらないが、相談役の1人はジョージ・W・ブッシュ前大統領の下で、エネルギー省環境マネジメント部門の次官補だった。さらに、キュリオン社の大口投資会社では、1993~95年にCIA(米中央情報局)長官を務めた「大物」が4月に「ベンチャーパートナー」に就任している。これらの人物が日本政府と何らかのつながりを持っていた可能性もないとはいえない。
キュリオン社のウェブサイトには、過去の実績は掲載されておらず、同社の技術力を解説する内容もない。何ともつかみどころのない印象だ。