大規模な河川の氾濫で洪水に見舞われた米ネブラスカ州の原子力発電所で、原発の建屋の周辺に設置されていた防水設備が壊れ、事態が悪化している。
原発当局は「注意深く観察する」との姿勢を変えていないが、同州にはもう1基、洪水の被害を受けている原発がある。原子炉を冷却するのに必要な電源の確保が心配されている。
主電源ストップ、1か月に2度目
洪水のため、6月中旬には孤立寸前に陥っていた米フォート・カルフーン原発に、いっそうのピンチが押し寄せた。現地時間2011年6月26日、ミズーリ川の増水であふれ出た水が防水壁を破って、原子炉建屋に迫ってきたのだ。この防水壁は巨大なチューブ状で建屋の周りをぐるりと囲み、水をせき止めていたのだが、何らかの理由で一部が破損したという。
同原発を管轄する「オマハ電力公社(OPPD)」は、「防護壁は、洪水に際して追加的に設置したもので、致命的な事態ではない」と説明したが、流れ込んだ水で配電機能が支障をきたして、主電源が一時ストップしていた。原子炉冷却のために非常用ディーゼル発電設備を作動させ、数時間後には主電源が復旧したものの、「あわや」の危機に直面していたのだ。6月7日にも、建屋内の火災で電源が一時喪失し、使用済み核燃料貯蔵プールの温度が一時上昇しており、気が気でない状況が続く。
映像を見る限り、ミズーリ川沿いに建つフォート・カルフーン原発の敷地内は茶色く濁った水に覆われ、今にも建屋が浸水しそうだ。それでも米原子力委員会(NRC)は、米国内の原発における緊急時評価基準で4段階中最も低い「異常事態」にとどめている。これは「原発施設の安全を脅かす可能性のある事象が起きているが、放射性物質の飛散はない」との内容だ。NRCは「事態を注視する」とする一方、万一電力を喪失しても、非常用電源が十分確保されていると安全性を強調している。
だが、ミズーリ川の増水は過去最大級に達し、洪水はいまだに収まる気配がない。原発から南に約30キロ進むと、ネブラスカ州最大の都市オマハがあり、周辺地域を含めておよそ80万人が暮らしている。同州の地元紙は、「川の水位は危機レベルではない」「原発は大丈夫」と繰り返すNRCに対して、「もし川の増水が止まらなかったらどうなるのか」と疑問を投げかけている。
「水位がさらに増しても耐えられる設計」
問題はフォート・カルフーン原発だけではない。オマハの南約120キロの場所には「クーパー原発」がある。同じようにミズーリ川の氾濫で、周辺は水浸し状態だ。
フォート・カルフーン原発は4月7日から、核燃料の入れ替えのため冷温停止状態だが、クーパー原発は現在も稼働中。NRCの6月22日の発表によると、増水で川の水位は、原発が建つ敷地まであと76センチの高さに迫っている。防水壁を設置し、土のうを積み上げて対処に当たる。
NRCのグレゴリー・ヤツコ委員長は現地時間6月26日にクーパー原発を訪問し、施設内を視察した。途中、ヤツコ委員長は記者団に対して、「作業員たちが適切な処置を施している。準備を怠らず、川の水位を注意深く見ていく」と話した。さらに「クーパー原発は、我々が現在目にしている洪水より水位が上昇したとしても耐えられる設計だ」と説明した。同27日にはフォート・カルフーン原発も訪れる予定だという。
6月26日付の米ニューヨークタイムズ紙(電子版)は、「洪水は常に原発のリスクだが、福島第1原発を津波が襲ったことで、その脅威は以前よりも注目を集めている」と指摘した。そのうえで、原子炉冷却に欠かせない電源を、福島第1では津波が原因ですべて失い、今日の深刻な事故を招いた点を解説している。