JR東海のリニア中央新幹線(東京-大阪)計画について、大畠章宏国土交通相が2011年5月末に同社に建設指示を出し、最高時速500キロの夢の超特急の建設にゴーサインが出た。これを受け、まず建設する東京-名古屋の中間駅の候補地を、地元との調整が遅れている長野県を除いて公表した。
南アルプスをトンネルで貫くほぼ直線の「南アルプスルート」で建設することが既に決まっており、2014年度着工、東京-名古屋が27年度、さらに大阪までは45年度に開業する計画。東京-名古屋は東海道新幹線の1時間40分から40分に、東京-新大阪は2時間25分から1時間7分へ、大幅に短縮される。建設費は9兆300億円を見込む。
長野県側は南アルプス迂回ルートを希望していた
リニア東京-名古屋間は、発着の東京都と愛知県を除き4県を通過する。中間駅は各県1駅設置する事になっており、選考を進めてきた。このうち、長野県を除く3駅の候補地が2011年6月7日に発表された。神奈川県は相模原市、山梨県は甲府盆地南部(甲府市、中央市、昭和町)、岐阜県は中津川市を中心とし、それぞれ半径5キロ圏内を示している。詳細な位置決定には、2年以上かかる見通し。
今回、長野県の公表が見送られた背景には、ルート選定時からのJRと地元の軋轢がある。長野県側は南アルプスを迂回するルートを希望していてが、直線で決着し、「県側の機嫌を損ねた」(関係者)という。
直線ルートでは、飯田市の北に隣接する高森町周辺が順当だが、地元では南信州の中核都市である飯田市のJR飯田駅にリニア駅を併設し、地域活性化の起爆剤にしたいとの思いが強い。ただ、JR側は速さを第一に考えて直線にこだわる構えで、地元の意向においそれとOK出来ない。そこで、公表を他県より遅らせ、地元感情に配慮する姿勢をアピールしたとみられる。
問題は駅の建設費だ。JR東海は、東京、名古屋、大阪の既存駅については地下に設けるターミナルを自前で整備するが、途中駅は「受益者である地元で負担を」と、自治体に費用負担を 求めている。建設費は地上駅で350億円程 度、地下駅を予定する相模原は2200億円と試算され、財政難の中、自治体との調整は難航必至だ。
リニア効果で観光客が増えるのは、最初の何カ月?
駅建設負担はさて置き、地元の期待はなんといっても経済効果。例えば山梨県の場合、県の「リニア影響基礎調査」(2009年12月)で、リニアは県内と東京を25分、名古屋を39分で結ぶ 結果、県内生産額は年間146億円(0.22%)増、 交流人口(県内の発着人数の合計)は1日約2万人増、 県内消費は年間54億円増――などと試 算している。
しかし、専門家からは「試算に使った計算モデルは、高速道路の効果の試算によく使われるもので、リニアは高速道路のように荷物を運べるわけではなく、製造業の出荷額の増加などにどこまで見込めるか」といった疑問の声が出る。
観光面の効果についても、観光目的の交流人口は1日あたり5100人多くなると試算しているが、仕事や観光で来県した3000万人のう ち88%が車利用者で、鉄道利用者はわずか9%(2005年)という数字もあり、県内観光業者の間では「リニア効果で観光客が増えるのは、最初の何カ月かだけだろう」との悲観論が少なくない。
他県を含め、駅が郊外に立地すれば、中心部などからのアクセス道路や駐車場といった駅周辺施設など、駅自体以外の整備費用も必要になる一方、中心市街地衰退の恐れもある。東京が近くなることで、東京からの集客とは逆に、若年層を中心に人口流出の可能性を指摘する声もある。