使い慣れた駅のエスカレーターが止まる。照明が暗くて足もとが見えない。首都圏の節電で視覚障害者は大変な不便を強いられてきた。「節電本番」の夏が近づくが、弱者への配慮はされているのだろうか。
目印が分からなくなった
震災以降、多くの事業者が実施している節電対策として分かりやすいのが照明の消灯だ。
視覚障害者の約9割は多少視力の残る「弱視者」で、わずかな視覚情報を頼りに日常生活を送る。それが、節電で光が減って、これまでなんとか見えてきたものも見えない。
特に危険なのは、地下鉄を中心とした駅構内だ。東京視覚障害者協会(東視協)の栗山健会長によれば、節電による照明の一部消灯で、階段の下り口が見えない、エスカレーターの位置が分からない、点字ブロックや案内看板が見えにくいなどの訴えが多数あったという。
東視協では、会員が地下鉄などの駅構内を点検し、不便と気づいた点があれば改善要望を出してきた。栗山会長は、「改善は見られますが、私がいつも利用している駅では目印にしていた光が分かりにくいまま」と話す。
見えない恐怖はストレスにもなるが、震災を受けての節電対策ということもあり、声高には批判しにくい。
森永卓郎氏「しわ寄せは弱者に向かう」
一部エスカレーターの稼働停止は、視覚障害者だけでなく足腰の弱い老人らにとっても不便だ。混雑した階段の上り下りには危険もともなう。
経済評論家の森永卓郎氏は6月15日発売の雑誌「SAPIO」で、「足の弱っているお年寄りや妊婦の方などは、エスカレーターがないと本当に上り下りが辛い。『階段を上ったほうが健康にいい』などというのは『強者の論理』で、常にしわ寄せは弱者に向かう」と指摘する。
5月25日に発表された政府の電力供給対策で、鉄道関係は今夏の削減義務が緩和された。これを受けて鉄道事業者では5月下旬ごろからエスカレーターを極力再稼働させているが、まだ全面再開ではない。自販機や案内看板を含む照明も、一部消灯が続く。
東京メトロは、エスカレーターの稼働や乗り換え案内看板の点灯を、夏期の節電対策中も継続することを決めた。駅構内照明の一部消灯についても、「お客様の安全に配慮しながら実施します」。
東日本旅客鉄道は夏期のエスカレーター稼働について、「朝夕は基本的に稼働させます」。ただ12時から15時は15パーセントの削減を要請されていることもあり、「高低差やお客さまの混雑などを勘案したうえで、稼働させます」としている。