東日本大震災は、各種メディアの広告費に打撃を与えた。経済産業省の月次調査によると、直近の2011年4月は前月比で軒並み大幅ダウンとなった。年々成長しているインターネット広告も例外なく落ち込んだが、一方で前年同期比では増加を保った。ただ、業界ではこの数字に首をひねるばかりだ。
経済産業省が2011年6月15日に発表した「特定サービス産業動態統計調査」2011年4月分の確定値では、広告業の売上高の推移が示されている。新聞、雑誌、テレビ、ラジオにインターネットを加えた5媒体をみると、売上高はいずれも前月比で大きく後退した。3月11日に発生した東日本大震災の後、各媒体への広告が手控えられたことが原因とみられる。
「バナー広告ゼロに近かった」のになぜ?
しかし「前年同期比」となると媒体によって違いが出る。新聞は14.3%減、雑誌は15.4%減となったのに対して、インターネットは11.9%増を記録したのだ。売上高でも、新聞が249億1700万円なのに対してインターネットが234億3400万円と肉薄している。金額に限れば、月次ではネットが新聞を抜きそうに見える。
実際はネット広告も、震災直後は大きなダメージを負った。大手ネット広告代理店に聞くと、「バナー広告はゼロに近かった」と打ち明ける。一方で検索連動型広告は「激減」とならずにすんだ。ユーザーの検索結果に応じて表示されるものなので、内容によってコントロールしやすく、「自粛の対象になりにくかった」ようだ。
震災から時間が経過するにつれて、広告も「足元は戻りつつある」が、今後の見通しは不透明だと、この代理店では考える。経産省の調査で、4月のネット広告が前年同期比増だったことを質問すると「ちょっと信じがたいですね。現場ではそのような感覚はありませんでした」と戸惑った様子だ。現在は様子見で広告の出稿を絞っている顧客が、景気の回復とともに増やしていくのではという期待はあるものの「今のところその兆候はありません」と説明する。
経産省調査では対象を限定している?
経産省調査統計部に、4月のネット広告の「前年同期比増」の理由を尋ねると「携帯電話関連の広告の伸び」を挙げる一方で、集金の時期がずれて4月に計上されたといったような「特殊な要因」もいくつかあったと説明した。
経産省は、調査対象とした「広告業」について、「企業を対象にしている」という点以外は詳細を公表していない。ある広告の研究機関に聞くと、実は大手や中堅規模の広告会社に対象を限定しているようなのだ。これらの企業は、ネット広告に重点的に取り組んでいることから、売上高の伸びの大きさに反映されている可能性はある。
実際に、電通が2011年2月23日に発表した「2010年日本の広告費」と比較してみた。10年1~12月のネット広告費は7747億円で前年比109.6%となっている。しかし経産省の調査では、ネット広告費の総額は2219億8600万円で、前年比117.3%だ。経産省調査では、伸び率は電通調査よりも大きいが、総額は3分の1を下回るほどに規模になっている。調査対象が限定されていることも、数字上「前年同期比増」という「マジック」を引き起こしたのかもしれない。