福島第1原子力発電所の事故による放射能汚染が予断を許さない状況が続いているなかで、英フィナンシャルタイムズ(FT)が、「発がん性」の点では放射能と同様に危険なタバコで「政府はもうけている」と皮肉めいた記事を配信した。
「日本政府は、福島第1原発の事故による放射能汚染の危機から国民を守ろうともがく一方で、発がん性のあるタバコからさらなる利益を得ようとしているのは、奇妙に見える」
株式50%超を握り配当金は300億円
2011年6月14日付のFTの記事は、このような書き出しで始まる。放射能と同じくタバコもがんを発症する危険があるにもかかわらず、政府は「タバコ対策」を講じるどころかタバコで稼いでいる、との指摘だ。
外部被ばくによる発がんリスクは、喫煙と比較して低いとする専門家もいる。東京大学医学部附属病院放射線科の中川恵一准教授による「チーム・ナカガワ」のブログを見ると、致死性の発がんの危険は「放射線量100ミリシーベルト」で1.05倍になるとする一方、喫煙では、「発がんのリスクは一気に1.6倍」となり、「放射線被ばくで言えば、2000ミリシーベルト!に相当します」と説明している。だからと言って「放射線を浴びても害はない」というわけでは決してないが、タバコがいかに高リスクかを示しているとは言える。
だが日本の財務省は、「世界3位」の日本たばこ産業(JT)の株式50%超を握り、配当金として300億円以上を受け取っていると、FTは明らかにしている。さらに記事は、この配当金は、財政赤字に加えて東日本大震災と福島第1原発事故の処理で巨額の費用を抱える政府にとって歓迎すべきものだ、と続く。しかし、政府がJT株を保有していること自体が問題だと批判。結果として、福島第一原発の事故による放射能対策に巨額の費用をかけ、もう一方ではがんを誘発するタバコを国民に売りつけて富を得ているという「倫理的な矛盾」が生じていると結論付けた。
社説で「原子力のない世界は安全でなくなる」
欧米では、タバコの発がん性への見方が厳しい。タバコの箱には「喫煙でがんになる恐れ」といった警告文を大きく載せ、真黒に汚れた肺といったタバコの危険性を連想させる写真が入る。そのタバコを事業とする会社の株式を5割以上持ち、配当金を得ている日本政府が「原発の放射能対策」に頭を痛めている図式が、英国紙のFTには奇異に映ったのかもしれない。
同紙は4月、世界で「脱原発」の流れが加速するなかで「原子力の時代 死ではなく復活の時」という独特な内容の社説を出した。「原子力のない世界は安全でないものになる。世界の電力量の14%を占める原子力を、将来にわたって化石燃料や再生可能エネルギーで代替することは不可能」「エネルギーの安定は、原子力を含む多様なエネルギー源があって実現できる」と主張したのだ。
福島第1原発の事故後、「各国政府が原発の拡張計画を一時ストップし、既存の原子炉の安全性を点検しているのは正しい」と評価する一方で、東日本大震災のような巨大地震や津波の発生が考えにくいドイツのような国が、7基の原発の運転を止めたのは「行きすぎだった」と指摘する。今日の原発の問題は、大多数が20年以上前に建設されたという「設備の古さ」で、最新の設計であれば、福島第1で起きたような深刻な事態は防げたはずだ、と説く。
さらなる原子炉の安全性の追求や放射性廃棄物の処分法など、解決すべき点はいくつもあるが、単純に「原発ノー」と叫ぶ風潮に対して、FTでは疑問を投げかけた。こうした考えと今回の「たばこと放射能」記事は底流でつながっていると思われる。