社説で「原子力のない世界は安全でなくなる」
欧米では、タバコの発がん性への見方が厳しい。タバコの箱には「喫煙でがんになる恐れ」といった警告文を大きく載せ、真黒に汚れた肺といったタバコの危険性を連想させる写真が入る。そのタバコを事業とする会社の株式を5割以上持ち、配当金を得ている日本政府が「原発の放射能対策」に頭を痛めている図式が、英国紙のFTには奇異に映ったのかもしれない。
同紙は4月、世界で「脱原発」の流れが加速するなかで「原子力の時代 死ではなく復活の時」という独特な内容の社説を出した。「原子力のない世界は安全でないものになる。世界の電力量の14%を占める原子力を、将来にわたって化石燃料や再生可能エネルギーで代替することは不可能」「エネルギーの安定は、原子力を含む多様なエネルギー源があって実現できる」と主張したのだ。
福島第1原発の事故後、「各国政府が原発の拡張計画を一時ストップし、既存の原子炉の安全性を点検しているのは正しい」と評価する一方で、東日本大震災のような巨大地震や津波の発生が考えにくいドイツのような国が、7基の原発の運転を止めたのは「行きすぎだった」と指摘する。今日の原発の問題は、大多数が20年以上前に建設されたという「設備の古さ」で、最新の設計であれば、福島第1で起きたような深刻な事態は防げたはずだ、と説く。
さらなる原子炉の安全性の追求や放射性廃棄物の処分法など、解決すべき点はいくつもあるが、単純に「原発ノー」と叫ぶ風潮に対して、FTでは疑問を投げかけた。こうした考えと今回の「たばこと放射能」記事は底流でつながっていると思われる。