日本経済が東日本大震災で受けた大打撃から急回復する兆しが出てきた。自動車メーカーは「強気」に転じ、トヨタ自動車は2011年7月中旬から全国で期間従業員を3000~4000人を採用。ホンダも1000人規模を増員する方針だ。
内閣府が発表した6月の月例経済報告でも、生産や輸出、個人消費などの項目が4か月ぶりに上方修正され、景気判断は「このところ上向きの動きがみられる」としている。
トヨタは期間工を3000~4000人増員
トヨタは2009年秋から募集を停止していた期間工を、現在の950人体制から4000~5000人体制にもっていく。ホンダは6月下旬に生産がほぼ正常化する見通しで、埼玉製作所や鈴鹿製作所などで約1000人を採用し、増産に対応。鈴鹿工場での募集は2年半ぶりになる。
日産自動車は7月末までに国内工場で200人を採用し1400人体制に。富士重工業は12年3月までに群馬製作所などで約400人を増員。1500人体制にして、リーマン・ショック前の1700人規模に近づける。三菱自動車やマツダも増員する方向だ。
自動車各社の期間工の増員を可能にしたのが、サプライチェーン(経済活動の基本となる流れ)の急回復だ。第一生命経済研究所主席エコノミストの嶌峰義清氏は「サプライチェーンがここまで急回復するとは思わなかった」と驚く。
また、内閣府経済社会総合研究所も「半導体や自動車のサプライチェーンの復旧が前倒しで回復していることが、(景気回復の)ペースを早めていると考えています」という。
サプライチェーンの急回復に伴い、トヨタでは7月には国内外の生産体制を震災前の水準に戻る見通しで、秋以降は震災直後の減産分を取り戻すため、生産レベルをさらに引き上げていく。期間工の増員はこうした計画にそったものだが、内閣府は「雇用にとって明るい材料ですから、このままいってほしいですね」と話す。
被災地にとって自動車は生活必需品。その需要も見込まれるが、前出の嶌峰氏は「自動車メーカーが強気なのは、震災後に顧客の需要に応じられなかった受注残が相当あるからだろう」とみている。
現状は「節電特需」がけん引役
一方、最近はLED電球や扇風機といった「節電グッズ」が消費をけん引しているのも見逃せない。現状では、この「節電特需」が景気を加速度的に押し上げているとみられる。
消費が上向いている背景には「自粛ムードがやわらいできたこと」(内閣府)があるが、懸念材料がないわけではない。
第一生命経済研究所の嶌峰氏は「電力不足や放射線漏れ、政治の混迷が足を引っ張っていて、消費マインドは回復が遅れている」と指摘する。
いまの「景気回復」はサプライチェーンの急回復という「ポジティブ・サプライズ」の要因が大きい。企業の生産体制は節電の影響で7~9月に一たん伸び悩み、「震災前の水準に戻るのは10~12月期」と、嶌峰氏は予測する。
ただ、企業の生産体制が震災前の水準に戻っても、「需要の悪化が最大の懸念材料になる」と話す。