「私の顔を本当に見たくないなら、早くこの法案を通した方がいい」――菅直人首相が掲げた退任の条件の1つが、今国会での再生可能エネルギー特別措置法案の成立だ。
ここにきて菅首相は産業界などの反対を押し切ってでも成立を図りたいとし、さも自分が力を入れてきた重要法案のようにもアピールしている。
鳩山前首相時代から準備が進められ、震災前に閣議決定
再生可能エネルギー特措法案は、太陽光発電や風力発電など自然エネルギーによる電力を、電力会社に国が定めた固定価格で買い取るよう義務づけるもので、発電事業者の新規投資を促すのがねらいだ。
電力会社は買取にかかった費用を回収するため、使用電力量に比例した賦課金(サーチャージ)を電力料金に上乗せできる。
この全量固定価格買い取り制度は、2009年の民主党マニフェストにも明記されており、実は鳩山前首相の代から準備が進められてきた。震災の起きた3月11日午前に閣議決定され、4月5日には国会に提出されたが、手つかずのままとなっていた。
実質的な料金値上げとなる法案については、鉄鋼などの負担の大きい産業界からは反発があり、民主党の前原誠司前外相が6月16日、「経済失速に追い打ちをかける」と懸念を示すなど、与野党で慎重論が出ている。
菅首相は6月上旬から自身のブログで、「次の時代」と題して再生可能エネルギー特措法への思い入れを語っており、16日には、「私にとっては初当選した約30年前からのテーマで、ようやく流れがここまで来た」とも力説している。しかし、震災以前に大きな意欲を見せたことはないといわれ、今回退陣条件としたのは唐突だ。
自民党マニフェストにも「促進」明記
与党は野党に早期の審議・採決への協力を求める方針だが、野党すべてが反発しているわけでもない。
環境相を務めたこともある自民党の小池百合子総務会長は6月21日の記者会見で、「菅さんが触れなくても再生可能エネルギー活用は対応すべき」と発言。6月22日にはツイッターで、「菅総理の大いなるカン違い→再生エネルギーの買取制度に自民党は乗れないと思い込んでいるようだが、すでに昨年の参院選マニフェストに明記していますよ」と説明している。
たしかに自民党の2010年マニフェストには、「再生可能エネルギーを20%まで引き上げ」として、固定価格買取制度の導入など再生可能エネルギーの利用促進が記されている。
小池氏は続けて、「要は再生エネルギー法案を3か月も見せ晒しにしておきながら、急に騒ぐのは総理延命の手段だと透けて見えるのですよ」と批判している。6月22日の朝日新聞朝刊では、「あの人は全く環境なんか興味がない」というベテラン議員の話も報じられている。