米ネブラスカ州にある原子力発電所が、洪水で孤立する危機にさらされている。近くを流れる河川が氾濫し、今にも原発敷地内に水が流れ込みそうだ。
この原発では、数日前にトラブルが発生して一時電源が失われている。原発関係者は会見で「安全宣言」を出し、「事故が起きているのでは」との懸念を払しょくしようと懸命だ。
配線をぬらして送電にダメージ与える可能性
2011年5月下旬から米中西部では大雨に見舞われ、ネブラスカ州にあるフォート・カルフーン原発一帯が水びたしとなっている。上空から撮影された映像を見ると、近くのミズーリ川からあふれ出た濁った水が、原発の目と鼻の先まで押し寄せている。
フォート・カルフーン原発を管轄する「オマハ電力公社」(OPPD)は、2011年6月17日に会見し、「原発に危険は迫っていない」と強調した。川の水位は平均海水面から896.6フィート(約273メートル)にまで達しているが、OPPDでは「1004フィート(約306メートル)を超えなければ原子炉を停止しない」と明言。仮に水位が1010~1012フィート(約308~310メートル)までであれば原発の設備を守れると考えており、また使用済み核燃料貯蔵プールが1038.5フィート(約316.5メートル)の高さに設置されていることも、現段階では非常事態と考えていない根拠のようだ。4月から、核燃料の定期的な入れ替え作業のため原子炉は冷温停止となっているが、洪水が収まれば再稼働する予定だという。
しかし、利用者には懸念材料がある。6月7日、建屋内で火災が発生しておよそ1時間にわたって電源が喪失、核燃料プールの冷却機能が一時ストップして温度が上昇する事態となったのだ。近隣住民に被害は及ばなかったが、福島第1原発の事故が深刻化しただけに、ヒヤリとする「事故」となった。
その記憶も新しいなかで発生した今回の洪水。万一原発内部が浸水したらどうなるのか。米国の原子力の専門家で、福島第1原発の事故でも独自の分析をウェブサイト上で公表しているアーノルド・グンダーセン氏は、ニューヨークのラジオ番組で「考えられるのは、電気系統への影響」だと答えた。水位が上昇することで電気の配線をぬらして損傷させ、送電にダメージを与える可能性もあるというのだ。事実、福島第1原発でも津波で配電盤や発電機が故障した。電源が完全ストップとなれば最悪の場合、核燃料プールが異常をきたす事態に陥りかねない。
「誤った情報が流れている」と不快感
一方で、洪水で水かさが増したとしても、津波のように強大な衝撃を与えるわけではないので、「非常用のディーゼル発電機を壊すような事態にはならないだろう」とグンダーセン氏は話す。実際にOPPDや米原子力委員会でも「外部電源は6系統を確保している」と説明している。だが、フォート・カルフーン原発が採用している「加圧水型原子炉」は、配管や配電が複雑に入り組んでいる仕組みだ。配管が汚れた水に長時間浸かるとなれば、好ましい状況とはいえない。
福島の一件があるだけに、ネット上では過敏な反応が見られる。放射性物質の飛散を心配する声だけでなく、「メルトダウンの可能性もあるのではないか」とのうわさまで出ている模様だ。OPPDでは「誤った情報が流れている」と不快感を隠さない。関係者が神経質になっているのは確かなようで、ネブラスカ州の地元テレビ局が、原発周辺の洪水の状況を放映した際に、「OPPDは撮影を望んでいなかった」とわざわざナレーションを入れたほどだ。原発周辺の週前半の天気は雨模様で、特に6月20日(現地時間)は「雷を伴う強い雨」となっている。