東京電力が原発被害者への賠償金を捻出するために売却を検討している保有不動産が、にわかに注目されている。
東京・内幸町にある本社ビルをはじめ、渋谷にある「電力館」や世田谷区野沢の社宅など、どれをとっても好立地にある優良物件ばかり。こうした物件が売り出される可能性があることから、大手デベロッパーなどは大規模再開発の青写真を描いて、早くも虎視眈々だという。
外資系やREITなどの投資ファンドも「参戦」か
東電は、発電所や変電所など事業に必要な施設や土地以外に、社宅や保養所などを保有。グループを含む不動産関連事業では宿泊施設や老人ホームの運営まで手がけている。
東電グループが保有する不動産、全126物件リストを一挙公開した週刊ダイヤモンド(2011年6月11日号)によると、自社オフィスや社宅、遊休不動産、賃貸のオフィスビルやマンションなど、想定価格は合計で3119億円に上る。
本社ビルとその近くにある新幸橋ビルディングと東新ビルは、みずほ銀行本店やNTT日比谷ビル、帝国ホテルがある一等地。遊休不動産のうち、三田中学校仮校舎跡地はJR田町駅近くのオフィス街で、土地面積も1万3000平方メートルと広い。都心に近い、便利な住宅地の杉並区下高井戸にある総合グラウンド、千住資材センターは東京ドーム1.3個分(約6万平方メートル)の広さがある。これにオフィス賃貸の芝浦アークビルを加えた7物件が、想定価格で100億円を超える高額物件だ。
東電はこのうちの一つ、総合グラウンドの売却を6月15日に発表。杉並区と売却額などを詰めている。敷地面積は4万3800平方メートル、実勢価格は200億円程度とされる。
今後もこうした物件が徐々に「放出」されることになるが、東電は金融機関などに、すでに売却を打診しているとの情報もある。
不動産事情に詳しい、東京カンテイ市場調査部の中山登志朗・上席主任研究員は、「東電の不動産は昔からの保有物件が多く、立地がよい超優良物件ばかり。それがそう遠くない将来に売却されるとなると、大手デベロッパーから外資系を含めた投資ファンドやREIT(不動産投資ファンド)も、こぞって買いに入るでしょう」と予測する。
国際アナリストの枝川二郎氏も、「企業の本社はそのままでは使いづらいですからね。東電も一たん売却して、しばらく賃貸で使ったとしても、最終的には出て行かざるを得ない。いずれは再開発にかかるのでしょう」とみている。
「二束三文の買い叩きはない」
東電は1000億円分の保有不動産の売却を明らかにしているが、「具体的なこと(物件)は決まり次第ということです」という。ただ、1000億円分の不動産は東電本体の保有物件で、こちらを優先して売却。その後グループ会社が保有している分(570億円)についても、「場合によっては売却する可能性がある」と説明する。
売却資金は原発事故の賠償金の支払い原資に充てるのだから、東電は売却物件をできるだけ早く、しかも高額で売りたいところ。売却価格について、前出の中山氏はこう読む。
「東電は保有する不動産が多いので、一気には売却することがむずかしい。でも、もともと優良物件ですから、入札していい値段が付いたところから売っていくのでしょう。いまの投資環境が原発事故の影響で、まだ本来にないこともあって、外資系ファンドなどが二の足を踏んでいることもありますが、少なくともかつての金融危機のように外資系ファンドが二束三文で買い叩いてもっていくようなことはないはずです」