テレビなどで携帯電話の「無料ゲーム」を扱う広告が氾濫している中で、任天堂の岩田聡社長(51)が「無料ゲームは業界を滅ぼす」と発言した、と話題になっている。米・ウォールストリートジャーナルのインタビューに答えたもので、任天堂の市場を奪い急成長した「モバゲー」や「グリー」、「iPhone」などの無料ゲームを牽制した形だ。
もっとも、任天堂広報は「岩田社長はこのような内容は語っていない」としている。
ゲーム開発者のモチベーションが下がる
ウォールストリートジャーナルの2011年6月15日付け電子版に岩田社長のインタビューが掲載された。タイトルは「Nintendo's Iwata Won't Gamble on Free Games」。内容はあらかたこんな具合だ。
他社が携帯電話やスマートフォンに無料、あるいは1ドル以下でゲームを提供、人気を博している現状について、任天堂が他社のハードにゲームソフトを提供することはないし、無料ゲームには興味がない、とした。そして、
「価格を下げればゲームソフトが大量に売れる、それは一つの方法だが、そこに明るい未来ではないでしょうし、業界全体が『fold(瓦解)』します。また、無料ゲーム全体のシステムについては、ユーザー全員が満足しているわけではないし、ゲームの途中で課金が必要になった場合、お金を払いたいと思うユーザーは少ないようです」
などと語った。
無料ゲームでは明るい未来がない理由の1つは、ゲーム開発者のモチベーションが下がること。開発者の1人として、岩田社長が日々目指しているのは、他社が誰も真似できないユニークかつ、ユーザーが満足できる高付加価値を持ったゲーム作りだそうで、「金を払っても買いたい」とユーザーに思われたい、と説明している。
このインタビューが出ると、海外のゲーム専門サイトは、
「Free-to-play destroys the value of game software」(無料ゲームはゲームソフトの価値を破壊している)などの見出しを掲げて岩田社長のインタビューを紹介。日本のゲームファンの間でも大騒ぎになった。「大いに賛同する!」といったものから「モバゲーやグリーに敵意むき出し!!」などというものもある。
「話した内容と記事は違っている」と任天堂広報
岩田社長はなぜこんな発言をしたのか任天堂に聞いてみたところ、同社広報は、インタビューは受けたものの話した内容と記事は違っているというのだ。色々質問されて岩田社長はそれに答えたが、話した内容の一部を切り取られ繋がれて、思いもしなかったストーリーなっているのだそうだ。
例えば、「無料ゲームはやらない」の件だが、任天堂は無料ゲームを配信していて、販売したソフトに、無料で追加ゲームを提供するなどが一つのウリになっている。また、価格が安いゲームと品質が悪いゲームがイコールでないのは当然なのに、そう取れるニュアンスで書かれている。そして、無料ゲームやスマートフォンの登場で任天堂がどうなるのか記者から質問を受けることはあるが、他社のビジネスモデルについて触れることはありえない、と主張する。
「当社としては他社がどうこうではなく、独自の路線でユーザーに他の所では得られない体験をしていただきたい。そのために満足していただける付加価値の高いゲームを自社のプラットフォームで提供していく。そういうことなんです」