電力の「全量固定価格買い取り制度」の注目度が増している。エネルギー政策の転換を目指す菅直人首相が制度の導入に並々ならぬ意欲をみせるなか、今国会に提出している関連法案の成立を推す超党派の署名が207人分も集まった。
「脱原発」を表明しているドイツがすでにこの制度を導入しており、日本でも導入がかなえば「脱原発に近づく」との声もある。太陽光発電など再生可能エネルギーの普及拡大を提唱するソフトバンクの孫正義社長や歌手の一青窈さん、映画監督の岩井俊二さんや鎌仲ひとみさんなどが推進を呼びかけるなど、勢いづいているようだ。
「すべて買い取ってもらえる全量制がおトク」
政府が導入を目指す電力の「全量買い取り制度」は、太陽光や風力などの自然エネルギーで発電した電力を、電力会社が買い取る制度。その名のとおり、太陽光発電などでつくった電力を「全量」、すべて電力会社に買い取ってもらえる。
一般家庭などの太陽光発電の電力は、現行でも「余剰電力買い取り制度」のもとで電力会社が買い取っている。この制度は、太陽光発電でつくった電力量から家庭で使った電力量を差し引いた余剰電力分を買い取ってもらうもの。買取価格は、太陽光パネルを設置した年によって異なり、たとえば2011年度に太陽光パネルを設置した家庭の場合で、1キロワット毎時あたり42円(10kW未満、非住居用・10kW以上の場合は40円)で、この価格が10年間保障されている。
より多くの電力を売るためには、家庭で使う電力を抑えるので「節電につながる」ともいわれる。
一方、「全量買い取り制度」の買取価格は未定だが、現行どおり毎年見直され、適用後は15~20年のあいだで保障される計画だ。
経済産業省は「全量制のほうが、つくった電力をすべて買ってもらえるのでおトクになります」と話す。
電力会社はトクも損もしない?
現行の「余剰電力買い取り制度」で、電力会社が電力を買い取る資金は「太陽光発電促進付加金」として電気料金に上乗せされている。たとえば、東京電力管内に住んでいる人は1キロワット毎時あたり0.03円を、電力使用量に応じて徴収されていて、電力会社はこの資金で電力を買っている。
つまり家庭でつくった電力を家庭で買い取っているともいえ、「電力会社は損することも、儲かることもありません」(野村総合研究所・上席コンサルタントの福地学氏)という。
「全量買い取り制度」を導入しても、電力を買う原資は「太陽光発電促進付加金」で賄うことになっており、電力会社の電力買取量が増えれば、「付加金」を引き上げるしかない。
ただ、「付加金の上限を最大100~150円に抑えることや、太陽光発電パネルの設置コストや買い取り価格の引き下げなどでできるだけ抑えるよう努めたい」と、経産省は説明する。
では、「全量買い取り制度」でなにが変わるのか――。野村総研の福地氏は、「全量制のメリットは、収支計算が立てやすくなって太陽光発電などの事業に新規参入しやすくなるということです」と話す。