新茶の収穫時期を迎え、各地の茶葉茶葉から暫定規制値を超える放射性セシウムが検出されている問題で、政府は2011年6月2日、食品衛生法の暫定規制値(1キ ログラムあたり500ベクレル=以下いずれも1キログラムあたり)を超える放射性セシウムが検出されたとして、茨城県全域と神奈川県南足柄市、小田原市、愛川町、真鶴町、湯河原町、清川村、千葉県野田市、成田市、八街市、富里市、山武市、大網白里町、栃木県鹿沼市、大田原市で生産する茶の 出荷停止を各県に指示した。原子力災害対策特別措置法に基づく茶の出荷停止措置は初めて。
これまで、出荷は自粛されていたが、どの段階で出荷停止にするか、政府内の意見対立で方針が定まらなかったため、法的な出荷停止措置は取られていなかった。ただ、生産者には厳しい規制になったため、産地に衝撃が走っている。
荒茶は水分が抜ける分、セシウムは5倍に濃縮
福島第1原発から250キロ離れた神奈川県南足柄市内の茶畑で収穫された一番茶の生茶葉2品目から放射性セシウム(134と137の合計)が検出 されたのが5月9日。濃度は550ベクレルと570ベクレルで、暫定規制値を上回った。同県内でその後、いくつかの茶畑から500ベクレルを超える生茶葉が見つかり、あちこちで出荷自粛が続いていた。
その後も茨城県内各地、栃木県鹿沼市など、福島県塙町、千葉県八街市などで500ベクレル を超える放射性セシウムが続々と検出され、消費者の不安が高まった。
お茶の一大産地の静岡県でも、規制値以下だったが、5月12日に富士市、沼津市、伊豆市の生茶葉から44~98ベクレルのセシウムが検出された。
生茶葉は、厚生労働省が定めた食品分類で、「野菜、穀類、肉・卵・魚・その他」に該当。セシウムの暫定規制値は500ベクレル。一方、飲料茶は 「飲料水」にあたり、規制値は200ベクレル。問題は、生茶葉を蒸気で加熱して乾燥させた荒茶、これをさらに加熱・整形する煎茶の扱い。
荒茶は水分が抜ける分、重量が生茶葉の5分の1程度になり、セシウムは5倍に濃縮される。店に並ぶ煎茶のセシウムはさらに多くなる。実際、神奈川県南足柄産荒茶を検査したところ、約3000ベクレルの放射性セシウムが検出されている。
「荒茶は半製品で消費者が口にすることはない」
厚生労働省は荒茶、煎茶をふくめ、流通するお茶は一律に500ベクレルを適用すべきだと主張。これだと、生茶葉が500ベクレル以下でも、荒茶や 煎茶で500ベクレルを超えるケースが続出する恐れがある。
一方、茶葉を使って煎じたお茶に溶け出すセシウムはどの程度か、静岡県が調べたところ、濃度は約4~9ベクレルと生茶の約10分の1~20分の1 に減った。このため、同県は、規制は生茶葉(500ベクレル)と飲用茶(200ベクレル)だけで十分として、荒茶や煎茶の500ベクレル規制に反 対。「このままでは茶の生産がストップする」と訴え、生産者を管轄する農水省も、「荒茶は消費者が直接口にするものではない」と主張。厚労省と農 水省が対立する構図になっていた。
しかし、一部の荒茶が抹茶アイスなどの加工食品に使用されていることなどから、厚労省の主張通り、荒茶や製茶も同じ500ベクレルで規制すること になった。
この結論は、生産者にはショック。出荷自粛で一番茶は捨てたという神奈川県内のある生産農家は「二番茶に期待していたが、お先真っ暗」と途方にくれている。静岡県の川勝平太知事は、政府の「荒茶も規制」の方針決定に対し、2日夜、「荒茶は半製品で消費者が口にすることはない」などとして、荒茶の検査を実施しない考えを表明し、国に反旗を翻した。国と産地の対立はなお尾を引きそうだ。