レンズのHOYAや半導体のルネサスエレクトロニクスなどが国内での生産体制を見直している。東日本大震災後、自動車産業をはじめ多くのメーカーが部品などの供給網が分断されたことで生産が滞った反省がある。
自動車部品などは海外生産にも影響が及んだことや、海外メーカーには地震の多い日本から他国へ調達先を増やそうという動きがみられるため、部品・部材メーカーは海外生産のウエートを高めてリスクの分散化を図る方向で検討している。
国内生産は「技術流出防ぐため」
ルネサスエレクトロニクスは2011年5月18日の決算発表時に、停止している主力の那珂工場(茨城県)について、「(震災前の状況に戻すため)復旧を加速させていく」と力強く話した。那珂工場の生産再開品は8月末以降に順次供給を開始しるが、それでも震災前の供給レベルに戻るのは10月末になる見通しだ。
ルネサスがつくる集積回路の「マイコン」はパソコンや携帯電話、銀行のATMなどに幅広く使われ、なかでも自動車部品は世界シェア4割とされる。ルネサスの供給が止まれば、世界中でクルマがつくれなくなるわけだ。
ルネサスは生産拠点の見直しについて、「震災前から自社工場やファウンドリー(受託製造会社)も含め生産ラインを見直していました。ラインの平準化による安定供給はつねに考えています」と話す。
一方、HOYAは半導体生産の原版となる「マスクブランクス」というガラス製部材の海外生産を検討している。同社は「具体的に決定していることはない」というが、すでにマレーシアに一部を移転製造していて、本格的な海外生産を進めるようだ。
国内の部品・部材メーカーは技術流出を防ぐ狙いもあって、基幹部分の国内生産は残してきた。また数年来、生産効率のアップや利潤追求のため、できるだけ在庫をもたずにいたが、国内であればすぐに生産が調整できると考えられてきたこともある。
しかし震災の影響とはいえ、長期に供給が滞れば、海外を含めたメーカーからは不満も募るだろうし、他社との併用も検討せざるを得なくなる。
各社は生産拠点を海外に分散することで、安定的な供給体制を目指す。
アジア諸国は「誘致」をアピール
「国内のモノづくり」のリスクは高まっている。円高の影響は大きく、トヨタ自動車ですら、小澤哲副社長が決算会見で「(円高対策は)すでに一企業の限界を越えている」と述べるなど、「トヨタが海外生産のウエートを高めるのではないか」と取沙汰された。
さらには、原発事故による電力不足への懸念がある。中部電力浜岡原子力発電所が政府の要請で運転停止に追い込まれたことで、その懸念は全国的に広まっている。
海外への生産移転を検討するメーカーがあるなか、震災後、日本企業を誘致しようという動きがアジア諸国に高まっている。4月には韓国政府が日本政府に対して、「被災地で操業停止に陥った日本企業の工場を韓国に移転するよう非公式に伝えた」との報道もあった。台湾やバングラディッシュ、タイなども誘致に熱心という。
すでに中国に工場を構える国内メーカーは少なくないが、最近は中国内の人件費の上昇などで、ベトナムやマレーシアなどに工場を移転するケースも目立っている。