スバルの富士重工業が軽自動車の生産を2012年2月に終えるとマスコミが報道し、波紋を広げている。スバルが軽の開発・生産から撤退することは既定路線で、既にダイハツ工業から軽の相手先ブランドによる生産(OEM)供給が始まっている。
トヨタグループの一員となったスバルは、レガシィやインプレッサ、フォレスターに代表されるスポーティーなクルマを開発・生産するニッチメーカーとして生き残りを目指すことになる。
名車「スバル360」から派生した商用車
しかし、スバルの軽に思い入れの強いファンならずとも、このニュースを深刻に受け止めた人々がいる。スバルサンバーを専用車として使ってきた全国の「赤帽」(全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会)のドライバーたちだ。
スバルは自社開発の最後の軽乗用車となる「スバルステラ」の生産を既に中止し、5月24日にダイハツのOEM供給による新型ステラを発表した。スバル最後の軽乗用車となった旧ステラは、モデル末期にもかかわらず、駆け込み需要が殺到。2011年4月は2072台を販売し、軽のベスト10ランキングで9位と健闘した。
スバルはルクラ、プレオなど既にダイハツのOEM車を投入し、多額のCMを流したにもかかわらず、皮肉にもスバルの軽のトップセールスは9位の旧ステラだった。
スバル最後の自社開発の軽として2012年2月まで生産が続くのは、軽商用車「スバルサンバー」だ。サンバーは、1958年に登場した名車「スバル360」から派生した商用車で、現行モデルは6代目。軽唯一のリアエンジン、4輪独立サスペンションとスバル伝統の技術を受け継ぎ、現行モデルは、こちらも軽唯一の4気筒エンジンと、軽としてはオーバークオリティーとも言えるメカニズムを搭載している。
「普通のエンジンでは赤帽の業務に耐えられない」
このため、軽商用車にもかかわず、サンバーの走りはスポーティーで、自動車評論家の国沢光宏氏ら専門家の愛好者も多く、軽商用車では唯一と言ってもよいファンクラブが複数存在する。スバルの軽撤退が決まった当初、愛好家が富士重工に対し、「せめてサンバーだけでも残してほしい」と、署名を集めて嘆願。大手全国紙が大きく取り上げたほどだ。
サンバーの生産中止を惜しむ声は、熱心なファンにとどまらない。サンバーのトラックを専用車として採用している赤帽のドライバーたちだ。赤帽によると、赤帽がサンバーを専用車に選んだのには歴史的経緯がある。赤帽が使用する軽トラックは「沢山の荷物を積み、長い距離を走る」ため、「普通の乗用車の寿命と言われる距離(10万キロ)を多い人は1年で、少ない人でも3年程度で走ってしまう」という。高速道路など長距離を長時間走ることも、短い距離を頻繁に走ることもあり、クルマを酷使するわけだ。
このため赤帽の組合員から「普通のエンジンでは赤帽の業務に耐えられない」という意見が出され、自動車メーカーに専用開発を打診したところ、要望に応えたのが富士重工だったという。赤帽は「エンジンに数項目の赤帽専用項目を盛り込み、その他にも専用部品を装備している。全国の組合員から様々な意見や要望が寄せられ、それらを反映させた結果、赤帽車は国土交通省の認可を受けた専用車輌になった」という。
赤帽サンバーの後継車はどうなるのか
つまり、赤帽が採用する赤帽サンバーは、サンバートラックをベースに耐久性や利便性を向上させた専用モデルで、自動車メーカー関係者によると、「他メーカーの軽トラックでは赤帽サンバーと同じ性能は出ない」とされる。かつてサンバーには農協系の専売仕様車として「JAサンバー」(「営農サンバー」)も存在した。スバル伝統の4WDで、走破性も高く、赤帽サンバーとともに、他メーカーの軽トラックが凌駕できない領域があった。
富士重工としても、赤帽サンバーは全国で2万台を超える車両が数年で代替していく巨大市場だっただけに、失うものは計り知れない。赤帽サンバーの後継車はどうなるのか。スバルファン、赤帽組合員ならずとも、気になるところだ。