いかにもお役所仕事の「連絡は紙で」
報告が上がっていないというのは、訂正発表資料の注記のところが関係してくる。保安院は「重要な事象は全て紙でやりとりすることになっており、(海水注入開始という)この種の連絡は紙であるべきだった」と述べた。
しかし、緊急事態に全てを紙でやりとりさせるのは無理だろう。いかにもお役所仕事だ。しかも、18:00からの検討には東電も参加している。その場で、菅総理が再臨界の危険性に関心があり、しかもホウ酸の入れ方など些細なことに保安院説明者が説明できず菅総理から叱責を受けていることも東電は知っていただろう。
だから、東電は海水注入を停止したはずだ。そうした状況にも関わらず、菅総理は、自分は指示していないという形式論で突っぱねる。あくまで東電の責任という。
しかし、その直後「19:55 総理により海水注入指示。20:05 経済産業大臣より原子炉等規制法第64条第3項の規定に基づき海水注入を命令」した。
成果が明らかになって、最後の実施の美味しい段階になると、菅総理は自分の判断を強調してかっこつけたがる。最後にかっこつけたいなら、その準備段階までみんな責任を持つべきだ。菅総理は、準備の失敗はお前がとれ、しかし結果が成功したら俺の判断がいいからだという、駄目なトップだろう。
一方、5月26日になって、東電が「実は海水注水は、現場判断で中断せず、継続していた」と発表した。福島原発の現場では、頼りにならない菅総理の意向など無視して海水注入を中断しなかったのだろう。菅総理は責任をとらないが、現場はきちんと責任をとるというニュースを聞いて、少し救われた気がする。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。