公務員給与の引き下げが計画される中、国家公務員の労働組合「国家公務員一般労働組合」のブログ「すくらむ」が怪しい主張をしている。統計データをもとに、国会公務員の方が民間より給与水準が低いとし、さらに、みんなの党などの公務員給与の引き下げを求める動きについて、「比較できない中身の違う調査をもってくること自体が間違っている」と批判している。
ところが、当の組合側のブログの資料の引用の仕方に不自然な部分があり、主張の妥当性に疑問が出ている。
ラスパイレス比較という項目は無視?
ブログでは、2011年5月19日、「国家公務員は民間より給与が低い上に一人当たりの仕事の負荷が世界で最も大きい」と題して、国家公務員と民間の正規労働者の年間給与を比較した表を掲載した。
表によると、国家公務員25歳の年間給与285万2000円に対して民間労働者20~24歳は291万5700円。国家公務員50歳は715万4000円なのに対して、民間労働者は45~49歳で813万4800円だ。
この表の出典は、国家公務員の給与が「人事院月報」10年9月号なのに対して、民間の給与は厚生労働省の「賃金センサス-平成21年賃金構造基本統計調査」。「人事院月報」のデータには残業代が含まれているが、「賃金センサス」のデータには含まれていないとされる。
ブログでは「年齢区分が違いますが」と断りながらも、
「すべての年齢層において、国家公務員の方が民間労働者より低い年間給与になっています」
と結論づけている。
だが、この資料の引用の仕方をめぐり、問題を指摘する声も出そうだ。実は、国家公務員の給与を引用した「人事院月報」10年9月号は、「人事院勧告特集号」。この時の勧告は、公務員の年間給与を平均で9.4万円(1.5%)引き下げることを骨子としたものだ。
ブログで示された国会公務員給与のデータは、勧告の中の「給与勧告の仕組みと本年の勧告のポイント」と題した付属資料の「国家公務員(行政職(一)及び指定職)モデル給与例」という項目(111ページ)から引用されている。だが、実はその3ページ前の108ページには、「民間給与との比較方法(ラスパイレス比較)」という項目がある。それによると、公務員の給与は民間よりも月給ベースで757円(0.19%)多いとされている。
また、勧告では、民間のボーナスの支給割合が3.97か月分なのに対して、公務員は4.15か月分だとも指摘している。
「執行委員がそれぞれの考えを自由に発信している場」
ブログでは、
「国税庁の『民間給与実態統計調査』の結果をもって、公務員の給与が法外に高いなどと主張していますが、国税庁の調査は、パートやアルバイトなど非正規雇用の労働者も含まれた調査ですので、とても低い数字となります。比較できない中身の違う調査をもってくること自体が間違っているのです」
と、データの不適切な引用を理由に、公務員の給与の引き下げを主張している勢力を批判している。その一方で、人事院勧告で示された公務員と民間との給与格差についての言及はない。
J-CASTニュースでは、
「民間と国家公務員の給与を比較する上で、『人事院月報』に示されている理由付けよりも、厚生労働省の『賃金センサス』の方が比較対象として優れていると判断した理由」
についての説明を求めたところ、「すくらむ」担当者は、
「問題意識が、みんなの党などが持ち出してくるパート・アルバイトなど非正規雇用労働者を含む国税庁の『民間給与実態統計調査』にありましたので、それなら全産業の正規雇用労働者を網羅している厚生労働省の調査と比較したらどうなるのかなと思って比較してみただけです」
と釈明。ブログの位置づけについても、
「執行委員がそれぞれの考えを自由に発信している場ですので御了承ください」
と、組合としての公式見解ではないことを強調した。