2011年度第1次補正予算成立、浜岡原発停止「命令」で、菅直人首相を引きずり下ろそうという動きが小休止になっている。民主党の小沢一郎元代表に近い議員が仕掛けた菅降ろしの動きは頓挫した形だ。ただ、首相の政権運営への不満のマグマは与野党を通じてたまり、国民の間にも閉そく感が漂う。中堅・若手議員を中心に与野党の枠を超えた議連や勉強会が続々と発足し、政局は政界再編も視野に入れた神経戦が続きそうだ。
菅降ろしを仕掛けたのは小沢系議員。大地震発生で一時中断を余儀なくされたが、菅政権の原発事故への対応の不手際もあって大型連休前から、両院議員総会開催に向けた署名集めを進め、「議員総会で民主党代表を解任決議する」構えで揺さぶりつつ、野党の動きもにらみ、内閣府信任決議案に賛成して可決させることも視野に動いた。
「減税日本」勢いを失ったのも当て外れ
小沢元代表自身、連休中に被災地を視察するなどし、原発対応を「結果的にはうまくいっていない。海に陸に空に地下に放射能を垂れ流している現実がある。政府の対応がこのままではいけないという声を強くしていきたい」と厳しく批判するなど揺さぶりをかけた。
しかし、小沢元代表の資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡る政治資金規正法違反(虚偽記載)事件の公判で、中堅ゼネコン、水谷建設の川村尚前社長らが裏金を渡した経緯などを証言し、「さすがに今の時点で小沢さんを担ぐわけにはいかない」(与党議員)状況に。連携を模索した河村たかし名古屋市長の地域政党「減税日本」が勢いを失ったのも当て外れだったとされる。
肝心の署名は、菅首相に代わる候補が見えない中、「混乱するぐらいなら現状維持で」といった声に押されて広がらず、小沢系による倒閣運動は完全に失速した。
対する菅首相サイドは、2011年6月22日に会期を迎える終盤国会に向け、次のようなシナリオを描く。子ども手当で自民、公明と妥協するのと引き換えに、2011年度予算の裏付けとなる赤字国債発行のための公債特例法を成立させ、会期延長せずに国会を閉じる、という「逃げ切り戦略」だ。
国会延長しない場合、内閣不信任提出
震災の本格復興に向けた第2次補正予算は8月以降に臨時国会を召集して審議することになる。2次補正を今国会で審議するとなれば、会期延長は必至で、会期が長くなればなるほど首相が野党などの追及にさらされる恐れがあるのを避ける狙いだ。
小沢氏の倒閣シナリオが頓挫し、自民党も戦術見直しに動く。大型連休明けに不信任案を提出して一挙に倒閣に突き進むという党内の一部で練られていた構想は完全に消えた。 ただ、2次補正先送り論には震災を政争の具にするとの批判が強い。そこで、自民、公明両党は5月17日、2次補正を先送りして今国会を延長しない場合、内閣不信任決議案を提出する方針を相次いで表明。これに対して政府・与党側からは今国会で1、2兆円規模の追加補正をする「1.5次補正」論も浮上。その場合も、国会は延長しても小幅にとどめる考えという。
与野党の枠超えた議員の動き急速に広がる
こうした政争に国民はしらけるばかりだが、政界でも、さすがに危機感が高まり、与野党の枠を超えた議員の会合、議連結成などの動きが急速に広がっている。
民主党の桜井充副財務相、自民党の林芳正政調会長代理ら政策通を中心に参院議員20人が今月9日に会食し、震災対応で協力を探った。さらに17日には民主党の樽床伸二元国対委員長、自民党の菅義偉元総務相ら両党の中堅・若手衆院議員が「国難対処のために行動する民主・自民中堅若手議員連合」を発足、対象を衆院当選5回以下に限ったが、参加議員は民主党87人、自民党22人、計109人に達し、国会会期延長を求める署名を始めることで一致した。
この日は樽床氏と民主党の古川元久元官房副長官、自民党の鴨下一郎政調会長代理、西村康稔衆院議員ら両党の衆参議員11人が超党派の「日本の復興と未来を実現する議員連盟」(復興議連)の設立準備会合を開き、エネルギー、政治制度改革などをテーマに提言をまとめることになった。民主党の松原仁衆院議員、自民党の小池百合子総務会長、公明党の坂口力元厚生労働相らも19日に「道州制懇話会」を設立する予定だ。
こうした一連の動きと絡んで注目されるのが仙谷由人官房副長官の動向。菅首相と微妙な関係が続き、「小沢外し」では一致しつつ、民自「大連立」に前向きとされる仙谷氏を首相は警戒しているといわれる。「復興と未来議連」の古川氏は仙谷氏に近く、相方の鴨下氏は石破茂自民党政調会長と近いことも政界再編含みとの臆測を呼ぶ。