いよいよ大投手への道を歩み出したという感じである。日本ハムのダルビッシュ有が2011年5月18日のヤクルト戦で5連勝をマーク。20勝超えの期待が膨らむと同時に、大リーグからも再び熱い視線を浴び始めた。
セとパのチームが対戦する交流戦。ダルビッシュはセの首位を走るヤクルトを軽くひねって見せた。8回を無失点で投げ切り、17イニング連続無失点で5勝目。これでプロ入り7年目で通算80勝となった。
離婚話を吹き飛ばす快投
「脱帽ですな。分かっていても打てない」
ヤクルトの小川監督は、むしろあっけらかんとしていた。力だけでなく技も駆使して投げたダルビッシュ。格の違いを見せつけた。
「(80勝は)ただの区切りの数字。それが目標ではない」
ダルビッシュは淡々として振り返った。自信があふれていた。夫人との離婚が取りざたされたが、それも落ち着き、精神的安定もあって素質開花といったところである。
20勝確実、25勝も見えてきた?
10日の楽天戦での15三振を奪った投球は圧巻だった。「どうやって打つんだ」と楽天の選手たちはお手上げ。星野監督もダルビッシュの実力を認めざるを得なかった。
「20年に一人のピッチャーですよ」
ダルビッシュの素質をこう見る評論家は多い。あの辛口の野村前楽天監督もその力を高く評価している。
「今の球界ではナンバーワン投手だな」
今のペースでいけば20勝は確実である。7月のオールスター戦までに10勝は間違いないだろう。あと3勝ぐらい上積みできる。そうなると25勝という数字も見えてくる。大エースへの期待だ。
「もちろん安心して見ていられる。調子が悪くてもそれなりに投げて勝つ。ほんとうのエースですよ」
梨田監督はそう言って絶対の信頼を置く。ゴールデンルーキー斎藤が戦列を離れている現在、ダルビッシュの快投にファンの目が注がれている。
「ダルビッシュは2ケタ勝利を計算できる」
日本駐在の大リーグ球団のスカウトたちは興奮して語る。球威、変化球、そしてコントロールと「すべて合格点」の評価を与えている。「試合度胸もいい」とも。
ダイヤモンドバックスは約65億6000万円を用意
2010年のオフ、大リーグの多くのチームはダルビッシュの大リーグ行きに大きな関心を持って待っていた。ポスティングを使って太平洋を渡るのではないか、と。たとえば、ダイヤモンドバックスは8000万ドル(約65億6000万円)を用意したといわれた。
西武の松坂がレッドソックスに移籍したときが60億円だったから、それを上回る資金を準備したわけである。
「もし、ダルビッシュがアメリカへ行ったら、また日本から大スターがいなくなってしまう。あまり勝ってもらうのも考えものだな」(笑)
こういう声が球界から流れるほどである。今シーズンのダルビッシュは年俸5億円の「単年契約」。このことが来年は大リーグ行きか、といわれるゆえんなのだ。
ダルビッシュは社会貢献に積極的である。宮崎県の口蹄疫のときは300万円、今回の東日本大震災では5000万円の義援金を送っている。また1勝あげるごとに10万円を施設に寄付をする基金を設立。すでに大リーガーと同じ活動をしている。(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)