電力会社の発電部門と送電部門を別組織化する発送電分離論が急浮上している。菅直人首相や枝野幸男・官房長官が言及したほか、日本経済新聞も社説で議論を呼びかけた。「分離」されれば何が変わるのだろうか。
2011年5月19日、枝野長官は、発送電分離について、「諸外国の例などを踏まえながら議論を進めていく」と述べた。菅首相が18日、発送電分離について「当然そういうことについても議論が及んでいくだろう、またそうすべきだ」との考えを示したことを受けたものだ。
日経社説「踏み込んで改革を議論すべきときだ」
発送電分離については、玄葉光一郎・国家戦略相や蓮舫・節電啓発担当相も「選択肢のひとつ」などと触れている。また5月5日付朝刊の日経社説は「既存の電力会社からの送電事業の分離も含め、踏み込んで改革を議論すべきときだ」と指摘した。
福島第1原発事故を抱える東京電力など各地の電力会社は、地域独占状態を維持しており、発電から送電、小売りまで一体的に運用している。発電・小売りの一部は一応自由化されてはいるが、送電網は電力会社がにぎっているため、新規参入が浸透しない要因となっている。
発送電分離は、先進国では導入例も多く、日本でも自由化の流れの一環として以前から議論にはなってきた。新規参入による競争が進みやすく、電気料が下がるメリットがあるなどと見込まれている。一方、価格競争が厳しくなると電力会社が設備投資を渋るようになり、大規模停電などにつながり易いとの懸念の声もある。2000年に発生した米カリフォルニア大停電の際にはこうした指摘も相次いだ。
10年ほど前には国内でも導入に向け機運が高まりつつあったが、電力会社側の激しい反発で立ち消えになったとされる。2003年には、経済産業省の調査会の電気事業分科会は「電気の安定供給を図るためには、発電設備と送電設備の一体的な整備・運用が求められる」とする報告をまとめた。
電事連「停電の少なさ、世界のトップレベル」
今回、発送電分離論が急浮上した理由は、いくつか指摘されている。いずれも原発事故を受けたものだ。菅首相は5月18日の会見で、今後力を入れる考えの自然エネルギーは地域分散型発電だとして、従来の大規模発電を前提とした送電システムの見直しが必要になってくるとの文脈で発送電分離に触れた。
一方、識者らの間からは、東電から送電部門を分けて売却し、原発事故賠償に当てるべきだという考えや、単に菅首相が「東電など電力会社に対して厳しい姿勢で臨んでいる」というポーズを示したいだけだ、という冷めた見方も出ている。
電力各社で構成する電気事業連合会は従来から、「電力の安定供給を図る上では、責任をもって運用できる事業者が、発電から送電までの一貫体制であたることが必要だ」との見解を示している。今回の菅首相の発言を受け、何だかの緊急声明などを出す予定は今のところはないという。
電事連のサイトには「1軒あたりの年間事故停電の国際比較」が載っている。国によって実績年次は異なるが(2004年から07年度)、5か国6地点(米国のみ2地点)中、日本は2番目に少ない16分だった。最長は162分のカリフォルニア(米)、以下100分のイギリス、57分のフランスと続く。最短はニューヨーク(米)の12分。同サイトでは「停電の少なさでも日本の電気事業は、世界のトップ水準にあります」としている。