東日本大震災の余波は、全国の温泉にも及んでいる。震災後、急に温泉が噴き出したり、逆に今まで出ていた湯が止まったり、といった報告が出ている。
湯が出ない温泉地では観光客の足が遠のき、経営に大きな支障が出始めた。原因は地震による地殻変動の可能性が高いが、本格的な解明はこれからだ。
箱根の温泉地では湯量2割増、温度も上昇
山梨県甲府市内の、かつて公衆浴場として使われていた民家の庭で、震災後に突如地中から湯が出てきた。近隣や道路に流れ出したため、県に苦情が寄せられたという。山梨県の大気水質保全課に聞くと、「わき水」の温度を測ったところ27度あり、温泉法で「温泉」と定義される25度を上回った。以前に営業していた公衆浴場では、自噴していた湯を利用していたようで、一度枯れた源泉が地震の影響で「復活」したかもしれない。
同課で山梨県内の温泉施設を調査したところ、「湯が濁った」「出なくなった」との報告を数件受けたと説明する。ただ、今では状況は落ち着いてきたようだ。一方で「地震の後で温泉が噴き出したという話は初めて」と驚く。
岐阜県飛騨市の割石温泉では湯量が増えた。同温泉の調査を続けている岐阜大学総合情報メディアセンターの田阪茂樹教授らがインターネット上に、割石温泉の毎日の湯量データを公開している。調べてみると地震当日の3月11日、地震発生前は1分間あたりおよそ45リットル程度の湯量だったが、発生後は急激に増量し、翌12日には毎分60リットル程度に達している。その後も変化があったようだが、5月17日現在では同55~56リットルとなっており、震災前に比べて増えたままの状態を維持している。
割石温泉では、大きな地震が発生するたびに同じような現象が見られるようで、2007年の能登半島地震の直後も湯量が増えたことがあったと伝えられている。
神奈川県温泉地学研究所に取材すると、箱根や湯河原といった温泉地でも「場所によって差はあるが、震災前より2割ほど湯量が増えた」と明かす。温度も1~2度上昇したそうだ。