菅直人首相が中部電力に浜岡原発(静岡県御前崎市)の運転停止を要請し、中部電力が受諾したことは、政財界のリーダーの価値観を測るリトマス試験紙となった。
夏場の電力不足に対する懸念は強く、経団連会長など「財界主流」からは停止に厳しい声が出るが、東海地震の想定震源域に立地する浜岡原発は地震学者などの間で「危険な原発」と以前から指摘されてきたこともあり、首相の判断を評価する声は少なくない。
川崎重工業会長「停止は当然だ」
菅首相は文部科学省の地震調査研究推進本部が「30年以内にマグニチュード8程度の東海地震が発生する可能性は87%」と分析していることから、浜岡原発について「東海地震に耐えられるよう、防潮堤設置などの対策を確実に実施することが必要だ。完成までの間、すべての原子炉の運転を停止すべきと考えた」と説明。中部電力は「首相の判断は重い」と受け入れた。
これに対し経済人から評価する声が出ている。スズキの鈴木修会長兼社長は「国の最高決定権者として正しかったのではないか。自分がもしそういう立場だったら、同じようなことをしたと思う」と述べ、首相の決断を評価した。スズキの工場は静岡県浜松市周辺に集中しているが、「中部電力は昨夏のピーク時に原発を除いても余力があり、今年も昨年並みなら電気が止まることはないだろう」と、冷静な見方を示した。鈴木氏は「今回の決定は地元企業として、また一人の日本人としても高く評価する。それに応えるためには、あらゆる節電をする」と、首相と中部電力に最大級のエールを送った。
神戸商工会議所の会頭を務める川崎重工業の大橋忠晴会長は会見で、「浜岡は以前から専門の学者が福島と同様の危険性を指摘している。国民の生命を守る観点から(停止は)当然だ」と述べた。川崎重工は原子力プラントを生産するメーカーだが、そのトップでさえも、浜岡原発の危険性に危惧を抱いているわけだ。