一時期は野党から「人間として問題がある」とまでテレビ番組で罵倒され、与党内でも退陣論が相次いでいた菅首相だが、ここに来て急速に「菅降ろし」が沈静化しつつある。自民党は記者会見の場でも退陣要求を事実上封印し、連立与党内でも、菅降ろしは「絶対にできない」という声もあがっている。
菅降ろしが本格化したのは、東日本大震災から約1か月後だ。自民党の谷垣禎一総裁は、2011年4月14日の会見で「自ら出処進退について判断する時に来ている」と、辞任要求を「解禁」。石原伸晃幹事長に至っては、4月18日朝のNHKの番組で、民主党の岡田克也幹事長を前に、菅首相が谷垣総裁に対して電話で入閣要請した際の経緯を暴露。
「やっぱり、そこの人間としての問題がある、総理は」
とまで言い放った。
党内でも一時期は倒閣運動の兆し
それからおよそ半月があった5月6日には、民主党の小沢一郎元代表が、政権批判を強める意向を表明。党内でも倒閣運動が本格化するかに見えた。
ただし、この倒閣運動で想定されている有力なシナリオは、「野党側が問責決議案または不信任案を提出し、与党内の勢力が賛同する」というもの。これが実現する可能性が、急に低くなっているようだ。
国民新党の亀井静香代表は2011年5月11日、出演したBSフジの番組の中で、民主党議員が野党提出の不信任案に同調する可能性について「あり得ない」と全面否定。菅降ろしについても「絶対にできない」と述べた。
自民党も、事実上矛を収めたように見える。自民党の谷垣禎一総裁は5月12日、定例会見を約30分にわたって行ったが、民主党に対する要求は(1)5月18日に党首討論を開催すること(2)6月22日の会期末で国会を閉会することなく、2次補正予算案を成立させることにとどまった。
原発問題収束したとたん「菅降ろし」復活?
さらに、福島第1原発の事故については
「今まで原子力エネルギーを押し進めていたことは誤りではなかった。ただ、このような巨大技術は、一度扱いを誤ると巨大な被害が生じる。現に、そういうことが起こってしまった。このことについては、我々も責任をとるし、まずやるべきことは、一体いかなることで、こういうことが起こったのかという検証を徹底的にやらないといけない」
「過去の日本の原子力政策の中に盲点があったことは否定できない」
と反省の弁を披露。菅首相が中部電力の浜岡原発停止を要請したことについても、経緯の説明が不十分だったことは疑問視したものの、要請自体については「ひとつの選択」と、一定の評価をしている。
ただし、まだ火種はくすぶっているとの声もある。例えば中曽根康弘元首相は5月13日の産経新聞のコラムで、
「ここにきて、菅政権は長期化するとの見方が出ているが、私は続いても2、3か月くらいだろうと思う。原発の騒ぎが収まれば、政権には外交や他の内政の課題が山積していることがわかり、菅首相の政治力への不信が再び噴き出すからだ。『ポスト菅がいない』のを理由にした延命にはくみしない」
と、原発問題が収束したとたんに、「菅降ろし」の動きが復活するとみている。