東日本大震災で壊滅的な被害を受けた漁業の再生の展望が開けない。主要被災地である岩手、宮城、福島の3県で計約2万9000隻あった漁船の約9割が津波で陸に打ち上げられたり、流されたりして使用不能になっているという。街角に今も残る巨大な船が復旧を妨げているケースも多い。
3県のうち、宮城県は登録している漁船1万3500隻のうち無事が確認できたのは1000隻程度にとどまり、残る1万2000隻が被害を受けたと推計している。岩手県も登録1万4300隻のうち、最終的に9割が使用不能とみている。福島県は1073隻中873隻が被害を受けた。3県計では全体の約9割に当たる2万6000隻程度が被害を受けたとみられる。
海に流出したゴミやがれきも悩みのタネ
被害船舶の中には、港の係留中に津波にあい、もやいロープが切れて沖合いに流されたまま行方不明になったケースも目立つ。海上保安庁が地震発生以降、海上で実施した行方不明者の捜索の過程で、2011年4月下旬までに381隻の漂流船舶を確認した。救助優先で船名などを確認しただけで次の捜索に向かったケースが大半で、港に曳航したのは50隻余りにとどまり、多くはさまよい続けるか、そのまま沈没した模様だ。
曳航したものも、所有者に引き渡せないものが少なくない。所有者が死亡したり、行方不明になったりしているためだ。これらの船舶は、明らかに使用不可能な状態であれば、陸地のがれきと同様、処分が可能だが、損傷の少ないものは勝手に処分するわけにいかず、港に留め置かれる状態が続く。
陸に打ち上げられた船舶も、同様に扱いに苦慮するケースが目立つ。大型クレーンで持ち上げ、トレーラー運搬し、修理すればいいが、機材が不足しているほか、回収・修理費用が保険ではとてもカバーできない例が大半という。
津波で海に流出したゴミやがれきも、漁師たちを悩ませている。例えばスケトウダラやマダラ、カレイを取る底引き網漁は三陸沖約15~20キロが漁場だが、水深約250メートルの海底から網を引き上げると、魚と一緒に海中を漂う大量のゴミが網に入り、流木やがれきのほか、布団や椅子、衣類、畳などの生活用品も目立ち、網を傷めるという。
農水省は国有化に消極的?
補正予算では、漁港などインフラ復旧のほか、共同利用漁船等復旧支援対策事業として273億円を計上。漁協が組合員の共同利用に供するために建造する小型漁船建造費などを補助する。ただ、被災地域の造船所も大半が壊滅的な被害を受け、修理や造船が進まない。
こうした壊滅的被害を受け、宮城県の村井嘉浩知事は漁業の「国有化」を提案している。同県の男性漁業従事者の4割が60歳以上で、新たに借金して出直すのは難しいとの判断だ。具体的には、漁港や漁船といった水産関連施設・設備を国費で整備し、石巻市や気仙沼市に複数の運営母体を設立して運営資金も国が出して「国有化」。生産の回復に努め、3年後をめどに株式会社化し、商社などの民間に売却するというイメージだ。
こうした取り組みを通じて、漁業の経営基盤を震災前より強くできるという。政府の「東日本大震災復興構想会議」でも提案しているが、農水省は国有化に消極的とされ、実現へのハードルは高い。