トヨタ自動車がこれまで重視してきた「国内生産」の姿勢が揺らいでいる。背景にあるのは円高と東日本大震災後の電力不足だ。
トヨタはリーマン・ショック後の2009年(279万台)を除いて、30年にわたり国内の年間生産台数300万台を堅持。国内生産に強い「こだわり」をもってきた。09年3月期の赤字決算や米国などで起きた大規模なリコール問題を乗り越えてきたが、今後は需要が見込める新興国などでの現地生産を強めるしか、グローバル競争には勝ち残れないのか。
円高「一企業の努力の範囲を超えている」
トヨタ自動車が5月11日に発表した11年3月期決算(連結べース)によると、新興国の販売増などによって、純利益は4081億円と前期に比べて94.9%増えた。
売上高は、前期比0.2%増の18兆9936億円。販売台数は730万台と1%増えた。ただ、国内販売台数は12%減。リコール問題の影響が残った北米も3%減少した。それをカバーしたのがアジアで、28%増の125万台と過去最高を更新。中近東や中南米も販売台数を増やした。
しかし、トヨタは円高に苦しんでいる。営業利益は4682億円と3倍強伸ばしたが、平均為替レートが1ドル86円と7円の円高となった結果、営業利益ベースで2900億円の損失となった。
小沢哲副社長は決算発表の記者会見で、「日本でのものづくりへのこだわりは、一企業の努力の限界を超えているのではないか。社長に進言せざるを得ない」と述べ、国内生産の縮小を検討する余地があることをほのめかした。
円高が進むなか、ウォン安やユーロ安を背景に韓国勢や欧州勢が販売攻勢をかけるなど、グローバル競争は激しさを増す。
豊田章男社長も「現在の為替水準では、わたしの思いだけではやってはいけない」と話し、関税を原則ゼロにする環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる議論を、政府が先送りしたことに対するいらだちもある。
世界販売台数の首位陥落必至か
円高に加えて、トヨタの「海外増産」の背中を押すのが、震災後の電力不足だ。トヨタは「できる限り早く通常どおりの生産体制に戻すよう、頑張っているところ」(広報部)と話し、豊田章男社長も「6月をめどに稼働率を7割程度まで回復できそう」と、稼働率を前倒しでアップできる見通しを示した。
しかし、生産能力が回復したとしても、原発の停止やその後の電力料金の値上がりなどで、生産コストが上昇するのは目に見えている。円高と生産コストの上昇が重なれば、世界市場での価格競争では勝負にならない懸念がある。
トヨタは東日本大震災による国内の減産で、2011年の世界販売台数が700万台にとどまる見通しだ。10年の世界販売台数は841万台と3年連続で首位だったが、陥落は免れそうにない。
それでも豊田章男社長は、「震災を通じて日本のものづくり底力を感じた。あくまでも日本での生産にこだわりたい」と、国内生産を重視する姿勢を示した。「国内生産重視の旗印を下ろしたことはない」(広報部)と強調する。