三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、米金融大手モルガン・スタンレーへの出資比率を20%超に引き上げ、筆頭株主になる。「邦銀が米金融大手を連結対象にするのは初めて」と胸を張るが、具体的なメリットは見えにくい。
一方、旧三菱UFJ証券が母体の三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、複雑な金融商品の自己売買に失敗して1000億円もの損失を抱え、2011年3月期に1450億円の大幅な赤字に陥った。金融業界では「MUFGの米モルガンへの出資比率引き上げのメリットは巨額損失の印象が薄らいだことくらい」との声も聞かれる。
発言権高まるが経営支配できるわけではない
「海外業務を前進させるうえで意義深い」。MUFGの平野信行副社長は会見で、モルガンのノウハウを活用すれば、M&A(企業の合併・買収)や北米・アジア展開を強化できると説明。筆頭株主になるメリットを強調した。
MUFGはリーマン・ショック直後の2008年秋、経営危機に陥ったモルガンに優先株の形で90億ドルを出資した。今回の普通株転換により、20%超の議決権を握る。ただ、追加出資は「考えていない」(平野副社長)としており、大株主としての発言権は高まるものの、経営を支配できるわけではなく、従来1人派遣していた取締役を2人に増やすにとどまる。
利益面では、モルガンの連結対象化に伴い、2012年3月期中に2000億円の一時的な利益を計上するほか、モルガンの利益の2割を自らの利益に毎年上乗せできる。現在のモルガンの利益水準が続けば、年間800億円の増益効果が得られる計算だが、投資銀行は市場環境や景気変動による収益のブレが大きく、連結対象化は「両刃の剣」(大手行幹部)でもある。
一方、モルガンのジェームズ・ゴーマン最高経営責任者(CEO)はアナリストとの電話会議で、優先株の解消が「今年の最優先課題だった。解決の絶好の機会だ」と指摘した。MUFGの優先株は配当利回りが10%と高く、モルガンにとって負担が重かったうえ、他の株主からの批判も強かったためだ。
経済史に残るほどの巨額損失のイメージ回復
さらに、国際的な自己資本規制強化が進む中、普通株が増えれば、モルガンの中核的自己資本比率の向上につながる。MUFGの普通株転換について、金融業界では「実利を得るのはモルガン側」(大手行幹部)との見方が根強い。
モルガン側のメリットが目立つ今回の連携強化だが、MUFGも「三菱UFJモルガン・スタンレー証券の巨額損失のマイナスイメージが希薄化された」(別の大手行幹部)のは確かだ。ある大手証券幹部は「弱小証券なのであまり騒がれなかったが、経済史に残るほど巨額の損失だ。報道されてから発表まで時間がかかったのは、モルガンの連結対象化という好材料をぶつけて相殺したかったのでは」と推測する。
損失を出した取引は旧三菱UFJ証券が保有していたもので、MUFGは今後、「モルガンからの助言を活用してリスク管理体制を強化する」(平野副社長)考え。連結対象化による果実をMUFGも得られるのか、まずは同証券の建て直しが試金石になりそうだ。